迷いの森のその先は
ここは何処だ? 俺は誰だ? 俺は生きてるのか、それとも死んでるのか? それすらもわからない。
気付くと、この場所に囚われていた。薄暗い荒れ果てた森の中生き物の気配もない場所で、俺がただ独りいるだけ。
自分の顔もわからない、名も思い出せない。身体は厚みがあり背も高いのだろう事はわかる。髪の色は長めの前髪と、肩につくほどの後ろの部分から推測すると濃い紅なのだろう。
着ているものは、紅と黒の頑丈な布でできた首から腰までの上着と同じ布で作られたズボンと表が黒、裏地が紅のマントを羽織ってる。そして、腰には大きな剣があった。
俺はいつからここにいるのだろう?何の為にいるのだろう?何処まで歩いてもこの森からは出れない。腹も空かない。
ただあてもなく歩いているだけだ。
「探したよ。何をしてるんだ君は。私を…………こんなに心配させて。……君は私を護って、こんな迷いの森になぞ入れられるなんて。あり得ないだろう!
私なら。魔術師の私なら、こんな森すぐに抜け出せるものを! 騎士の君は記憶も何も消えてしまい、出る事も叶わなくなるこんな最悪な森に飛ばされるなど! 騎士団長の責任感は無いのか! 私は魔術師なんだ。君に護ってもらわなくともあんな奴簡単に始末できるのに……
君が護るのは、婚約したばかりの可愛らしい姫だけでいい。これからは、私など捨ておけ。わかったな。それでは、王宮へ移動するぞ。皆、心配しているからな」
目の前に、薄紫の長髪に濃紫の瞳の泣きそうな細身の男が何処からともなく現れた。この男の言葉を聞くに、俺のことを知ってるのだろう。ひとしきり喋ったら俺の手を取り呪文を唱え始めた。
「駄目だ」
俺は、呪文を止める為にその手を引き、薄い身体を胸の中に抱き込んだ。その流れで俺の顔を驚き仰ぎ見ている綺麗な瞳を見ながらくちづけた。
そうすると、こいつが俺のだと理解した。何もわからない俺が、ただ一つわかることはこいつが、今俺が、息も漏らしたく無いほどにくちづけ。こいつの全てを自分の身体の中に取り込む勢いで、絶対逃さぬように囲い込み抱き締めているこいつが俺の命より大事だと理解した。
ぐったりしたこいつを大事に抱き抱え、俺は歩き出した。何処へ行くでもなく歩き出した。
歩きながらも片手で男を抱き、剣を鞘からスラリと抜き、目の前の空間を流れる様に切り捨てた。
すると、森は幻影の様に消え失せた。と、同時に俺の記憶が蘇ってきた。
「エル……俺はこの無駄にでかい身体と闘うこと、お前への想いしかないんだ。地位も名誉もない俺とエル一緒に生きてくれ」
剣を鞘に収めた俺は、泣いてるエルを抱き締め続けた。
happy end
《一年振りのお話です。これから途中で放棄しているお話達の続編も書いていきたいと思います。宜しくお願いします(^^)
YouTubeにて「皇子チャネリングオラクルカード」というスピリチュアル高めの占い?イタコ?も配信させていただいております。機械音痴で素人丸出しですが気になる方はどーぞ》