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6リーナ

第5王子として産まれてきたギルは幼い頃から既に王位継承権レースから外れていので、周りから期待の眼差しで見られることも第5王子派閥等も無かった。

だから王族としての知識や一般常識、マナーは教えられたがそれ以外の教育はあまりされなかった。


「猫が欲しい。」


最初は小さな我儘なから始まった。

次の日には何十匹の猫がギルの前に居て、どれでも好きな猫を飼って良いと言われた。

次は犬を欲しがり、次は馬、その次はとギルは欲しい物を何でも手に入れられた。

次第に我儘は何でも通る事が分かり、己の欲しい物を手に入れられない貧民や平民、下っ端貴族を馬鹿にし見下し始めた。

立派に傲慢な人間になった時、北の領地を管理するノース公爵令嬢との婚約が決まった。


「リーナ・ノースと申します。どうぞ宜しくお願い致します。」


まだ6歳なのに完璧なお辞儀をし微笑むリーナに一目で心を奪われた。

無事にリーナとの面会が終わり、これから先が楽しみになった。

1ヶ月に1度はリーナが登城しお茶を飲んで会話をしたり遊んだりしてとても楽しかったギルだった。

我儘で傲慢な性格は相変わらずだったが第5王子には変わりないしそんな性格を誰にも注意された事がなかった為、自分はこのままで良いのだと思った。

しかし年月が経つにつれリーナは貴族の女性らしくなり、リーナの横に並んでいると周りから第5王子の駄目さがよく分かると言われるようになった。

このままではいけないと知り、王族として勉学からマナーまで再度教育し直したがそのお陰でリーナとの時間は減り週に1度の手紙のやり取り、1ヶ月に1度会えれば良い状態になってしまった。

リーナに会えない苛立ちと王宮の人間達から我儘王子が今更何をしたって無駄だと言われ続け自分が変われば周囲の自分への評価も変わってくると努力をし続けていたが、100ある中の1をミスしただけで嫌味やダメ押しの嵐の環境の中、育ったギルは10歳になる頃には傲慢で我儘な性格だけではなく根性が曲がりくねった王子になった。

兄たちの様な慈愛に満ち優しさや厳しさを持つ王子になる事を諦めたのだ。

それからギルは傲慢さと我儘に拍車が掛かった。


ある日、ギルは国王である父が第一王子と第二王子を褒めている所を目撃した。

兄たちは謙遜しながらも嬉しそうに笑っていた。

そこでギルは気付いてしまった。

自分は誰からも褒められた事がなく、兄たちのように父から頭を撫でられた事すらない事に。

ギルは3人の居る部屋に入る事なく、自分の母親の居る部屋に向かった。


「母上、教えて下さい。」


ギルは母親に何故、自分は愛されないのかを聞いた。


「…貴方が悪いわけではないのです。」


母親はギルから目を逸らし、国王の正妃は他国の姫で第二、第三、第四、第五妃はこの国の東西南北を収めている公爵の娘たちだった事を教えた。

国内の争いを避けるためにいつの頃からかしきたりになっていたのだ。

母親は第三妃で元を辿れば東の領地を収める公爵の娘だった。

しかし身体は弱くとてもじゃないが妃としての役目を果たせないと公爵は国王に言ったが受け入れられず半ば無理矢理連れて来られたのだとギルに言った。

ギルの母親は国王を受け入れられなかったがその気持ちを無視するかのように国王が夜渡りをする。

その結果、産まれたのがギルだった。

ギルの母親は妊娠、出産をした事で長時間起き上がる事が出来なくなってしまい、本当なら第三妃として乳母と息子で出席するはずだった誕生祭にも出られず王族や貴族、王宮で働く人々からギルは両親からの愛情を貰えない王子として見られるようになってしまったのだ。


「…愛の無い夜渡りの結果産まれた子を国王が愛してくれると思いますか?」


ギルの母親は他人がギルを嫌おうと病弱な自分の元にやって来てくれたギルを心から愛していると言った。

母親はギルを手招きしベットに近付いたギルを抱き締め頭を撫でた。

この日からギルの性格は悪化する一方になる。

母親以外自分を愛してくれないのなら好き放題に生きようと決めたのだ。

その手始めに国王が決めた婚約を破棄しようと考え、性格に難有りでも王族なら誰とでも親しくなりたいと近付いて来る馬鹿女達と遊び呆けた。

リーナとは体裁を保つ為に今まで通り1週間に1度の手紙のやり取りをした。


13歳になる頃に女遊びをし終えたギルは何となく教会に足を運んだ。

そこでマリンと出会ったのだ。

マリンは他の女とは違いギルに言い寄って来たりせず、むしろギルが第5王子だと知ると諭すような説教をしてきた。


「貴方の噂は、この小さな古い教会にも届いています。婚約者様がいらっしゃるのに女遊びとは神が許しませんよ。」


ギルは母親以外に初めて素行の悪さを注意された事に感動した。


「…別に誰にも迷惑を掛けていないだろう?」

「まず婚約者様、次に貴方を産んだお母様。そして私よ。」

「は?」


自分の素行の悪さの噂が広まれば婚約者であるリーナや母親が後ろ指をさされるだろうが何故マリンに迷惑が掛かるか分からなかった。


「…見てください。私今、子供達に勉強を教えているんです。私は偶然この教会に立ち寄った王族の貴方を子供達に紹介しなくてはいけません。」


子供達はキラキラした瞳でギルを見つめている。

悪い噂が絶えない第5王子をどう良いように紹介出来るか考えなくてはいけないと言った。

ギルは考えながら紹介するマリンが可笑しくて笑いを堪えるのに必死だった。

王宮に戻り教会での出来事を思い出しては一人で笑った。

思えば笑ったのは何年ぶりだろうかと考えながら、もう一度マリンに会いたくなって会いに行った。

初めて会った時とは違いマリンは優しく迎え入れてくれた。

何度も何度も会いに行きプレゼントを持って行っては、高価な物は受け取れないと突っぱねられたがプレゼントは会いに行く度に持って行った。

いつしか深い仲になり高価なプレゼントも受け取って貰えるようになった。


「…もうプレゼントは要らないので、王子のお部屋に行ってみたいです。」


恥ずかしそうに言うマリンの願いを叶える為、ギルはすぐに部屋に招いた。

側近やメイド達は平民を王宮に入れる事は出来無いとギルに苦言を言ってきたが強行した。

王宮に入ってしまえばお客様だから側近やメイド達は完璧に対応した。

マリンは何かしてもらったら必ず礼を言う。


「ここでら君は客人だ。メイド達に礼を言う必要はない。」

「何かしてもらったらお礼を言うのは当然ですよ。」


マリンは微笑んで出されたお茶を飲む。


「…そうか。」


その後ギルはマリンを良く自室へ招き、二人は男女の仲になった。


「…私達は罪深い事をしてしまいました…。」

「?」

「貴方に婚約者様が居るのに…。」

「大丈夫。何が有っても君を守るから。」


男女の仲になってからマリンは少しずつ我儘を言うようになってくれた。

最初は自分の小遣いで賄える範囲だったが次第に小遣いでは賄えきれなくなり、マリンは機嫌を損ねた。

マリンが嫁いで行った姉のドレスルームへいつの間にか入りこのドレスをくれれば許すと言い出し、ギルはそれを許可した。

それからマリンは少しの事で機嫌を悪くし、その度に姉のドレスや貴金属を要求してきた。

許されない事と知りながら家族以外で自分を愛してくれるマリンを離したくなくてマリンの願いは何でも叶えた。


「…もう私達、会うの辞めたほうが良いと思うの…。」


16歳になる少し前にマリンに言われた。

理由を聞くと17歳になったら結婚する事が決まっているギルに会うのは辛い、それなら今別れてしまった方が良いと言ったマリン。


「ならマリン、婚約破棄をしたら俺と結婚してくれるか?」


ギルのその言葉にマリンは頷いた。

その結果がリーナとの婚約破棄騒動に繋がった。





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