5リーナ
婚約破棄騒動から数カ月間の間は穏やかな日が続いた。
昼食を食べた後、エリオルの居る教会を訪ね神の祝福を受け他愛のない話をする。
ギルと顔を合わせるのは最初は嫌だったが、あの威圧的な態度は一切見せず大人しくエリオルの手伝いをしているのを見て次第に嫌悪感は薄れていったリーナ。
「エリオル牧師様、以前にもお伝えしましたが…私、貴方の事が好きなのです。私とお付き合いをして頂けますか?」
懺悔室で改めてエリオルに告白をするリーナ。
「そのお気持ちだけ受け取ります。…申し訳ないのですが、私はリーナ様のお気持ちに答える事が出来ません。」
エリオルは春になったらシスターのハラナと結婚する事を告げた。
リーナは平静を装いながら結婚を祝う言葉を言い、エリオルは申し訳なさそうにお礼を言った。
懺悔室から出ると掃除をしていたギルと目が合い、お辞儀をして教会から出たリーナ。
馬車に乗り込もうとするリーナをギルの手が止めた。
「何故泣いているのですか?」
廃嫡されたギルは今は平民の為、貴族のリーナに敬語を使う。
「…泣いてなんていません。」
「目が真っ赤ですよ。」
リーナは振り返りギルを睨みつけようとしたが心配している様な顔をしているギルを見て睨みつけるのを辞めたが、その変わり大粒の涙を流した。
ギルは黙ってハンカチを差し出し、リーナは小さくお礼を言ってハンカチで涙を拭いた。
ギルは自分で良ければ話を聞くと言い、リーナはそれに頷いた。
二人は教会の脇にある広い庭公園に移動しベンチに腰掛ける。
「…今だから言うけれど…私はエリオル牧師様がずっと好きだったの…。」
リーナはギルに全てを話した。
表に出さなかっただけで、やっている事は婚約破棄前のギルと同じ事をしていたと今更ながらあの時のギルを責められないと言った。
そして今日、エリオルが結婚する事を知り感情が抑えられなかったと話すリーナ。
「そうでしたか…。」
リーナの話を全て聞き終えたギルが口を開く。
「まず婚約をしてから私は随分と横柄でしたし貴女を蔑ろにしました。貴女が他の男性を強く想うのも仕方ありません。そこはご自分を責めないでください。」
リーナは俯いていた顔を上げギルを見た。
リーナと目が合ったギルは微笑んだ。
「…それから…今は辛くともいつかきっと貴女を幸せにしてくれる男性が現れますよ。」
ギルと話して涙が収まったリーナはギルにお礼を言って屋敷に戻った。
ベットに横たわりリーナは先程の事を思い出していた。
リーナの知っているギルは威圧的で傲慢、階級差別を平気でする人の気持ちも分からない人間だった。
それなのに今は真逆の性格をしている。
『…一体何があったのかしら…。』
一度気になると確かめずには居られないリーナは次の日、教会に向かった。
朝一番で教会に行ったのでギルが道路掃除をしている所に出くわした。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
挨拶をし返すギル。
「ギル、貴方に聞きたい事が有るの。いつ時間が空くかしら?」
「…そうですね…。エリオル牧師様に聞いてくるので中でお待ち頂いてもよろしいですか?」
「ええ。」
ギルはリーナを教会の中へ招き入れるとエリオルの自宅に繋がる扉に行き姿を消した。
暫くするとギルとエリオルがやって来てエリオルがギルを一日自由を与えると言い、リーナとギルを見送った。
リーナはギルとゆっくり話をする為、行き付けの半個室になっているカフェに向かった。
給金を貰っていないギルは入るのを遠慮していたがリーナは自分が払うと言って無理矢理カフェに入った。
リーナは婚約破棄前にたまのデートの時にギルが良く注文していたコーヒーと自分用にカフェミルクを注文した。
座席に注文品が届き、一息つくリーナ。
「…それで私に聞きたい事とは何でしょうか?」
リーナに進められ気まずそうにコーヒーを口にしたギルが聞いた。
「昨日、大変取り乱してしまい申し訳ございませんでした。」
まず昨日の令嬢としてのマナー違反を犯したことを謝るリーナ。
それからギルが今まで自分が思っていた人間と全く違う人間になっていた事に気が付いた事を話した。
「…もし宜しければ、婚約破棄から昨日までに起こった事を聞きたいの。」
ギルは目を丸くしてリーナを見たが、すぐに微笑んだ。
「少し話しが長くなりますが宜しいですか?」
「勿論です。私が知りたいとお願いしているのだから何時間掛かっても知りたいのです。」
「そうですか…。では貴女と婚約した頃から話は遡ります。」