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2リーナ

ノース公爵家の騎士二人に無理矢理屋敷から追い出された第5王子は屋敷を後にし王都にある教会に向かった。


「マリン、聞いてくれないか?」


教会で子供達の世話をしていたマリンに声を掛けるとマリンはシスターに子供達を頼み、王子の元へやって来た。


「どうしたんですか?」


マリンはベンチに座る王子の隣に座り顔を覗き込む。

王子は先程ノース公爵家で有った出来事を話した。


「…そうですか…。まだ正式に婚約破棄が決まったわけではないのでしょう?なら王子、やはり誠心誠意ノース公爵令嬢に謝罪し婚約を続行した方が良いと思います。」

「そんな事をしたら君と一緒に居られなくなるじゃないか!」


マリンは王子の手をそっと触った。


「私の事は良いの。時々ここに来てくれるだけで十分。私との関係を続ける事で貴方が罰を受ける方が心が痛いわ…。」

「マリンッ!!」


王子はマリンの手を握った後、抱き締めた。

もう一度リーナに謝罪をしに行くと言って教会を後にした。


『アンタがノース公爵令嬢と結婚してくんないと私が罰を受ける事になるだろうが。ったくアイツ選んだの失敗したわ。』


シスターにお礼を言って子供達と遊び始めるマリン。



マリンは産まれたばかりの頃、この教会に捨てられた。

歳を重ねていくうちに周りの子供達も自分と同じ捨てられた子供なんだと分かった。

子供の頃、シスターが読んでくれる本で貧しいが心の美しい少女が王子と出会い幸せに暮らした物語が好きで心が綺麗であればいつか王子が自分を迎えに来てくれると信じていた。

月日が経ち、第1から第3までの王子は婚約者が決まってしまったし、第4王子は行方不明。

マリンは心が美しくても王子は迎えに来ないし、貴族でない王子と結婚出来ないと知った。

自分を捨てた両親は当然恨んだし、可愛らしく成長したマリンを引き取ると希望した貴族達に引き渡しをしてくれない教会側も恨んだ。

何故駄目なのかを聞くと誰も教えてくれなかったが深夜、牧師とシスターの話しを盗み聞きして引き取りを希望した貴族達はマリンを愛人にしようとしていた事を知った。

マリンはこの狭苦しい貧しい思いをしないのなら愛人だろうが何だろうがやってやると思ったが教会が認めない限りマリンは成人に達するまで教会に居なくてはいけない。

そんな事は耐えられないマリンは教会に訪れる人々に優しく親切にした。

可愛らしい顔立ちをして慈悲深い性格だと噂が立てば金持ちの誰かが愛人として引き取りをしてくれるかもしれない、もしくは金持ちの誰かと恋仲になれるかもしれないと考えた。

そうしてマリンの策略に嵌ったのは王位継承権第5位の王子だった。

王子はノース公爵令嬢との婚約が決まっていたがマリンの完璧な演技で見事、ノース公爵令嬢との婚約破棄までたどり着けた。

しかし穏やかな婚約破棄ではなかった為、原因を作ったマリンは国から罰を受けるかもしれないと知った時は血の気が引いた。

何とか王子にノース公爵令嬢と結婚してもらい自分は愛人として収まろうと作戦を考えたが、いかんせんヘッポコ王子の為上手く行くか分からない。

もう一度説得するように言ったが偉そうな態度を改めないと復縁は無理だろうとマリンは考えている。


『…こうなったら第4の王子を探して乗り換えるしかないわね。』


マリンは誰にも素の自分を見せていないので第5王子は、しつくされたとか言って責任を擦りつければ何とかなるだろうと考えた。


『アイツに第4王子の居場所を聞き出すまでは優しく接してやるか…。』


マリンは笑顔のまま子供に接した。





その頃、再び第5王子の襲撃を受けたリーナはゲンナリしていた。


「リーナ、本当にすまない。…あれは俺の気の迷いだったんだ…。どうかもう一度大地の神と海の女神の様に愛し合ってくれないか?」


リーナは鳥肌が立った。

一体いつ愛し合ったのか問いただしたくなった。

1週間に1度の当たり障りのない手紙を送り、一ヶ月に1度会えば良い方だったのに。


「無理ですわ。私は貴方を愛した事など有りませんもの。」

「なっ!?毎週の様に手紙をくれたではないか。…そうか…拗ねているんだな…。大丈夫、マリンとは別れてきた。」

「はぁ…。」

「よし、なら婚約は続行で良いな!」

「嫌です。」

「すぐにでも結婚したいと言うことか。一度過ちを犯してしまったから将来本当に結婚するか不安にさせてしまったか…。では父に式の日取りを決めるよう言ってこよう!これなら君も安心するだろう?」

「貴方とは結婚しません。お引き取りください。」


リーナは全く話が通じない王子に呆れ騎士を呼び出して王子を屋敷から追い出し、時計を見るとまだお昼前だったが教会に向かう事にした。


「…と言う事が有りましたの。」


いつもの様にエリオルに愚痴を言うリーナ。


「そうですか。人間誰しも一度は間違いを起こすものです。」

「だから許せと仰っしゃりたいのですか?」

「いいえ。次に間違いを起こさないように諭すのです。」

「諭せませんわ。」


リーナは王子の発言から行動から全てに虫唾が走り出来れば二度と会いたくない位に嫌悪感で一杯だった。


「まあ、これは牧師としての言葉です。個人的に言わせて頂けるなら、さっさと正式に婚約破棄をすればいいのでは?」

「…そうね。」


リーナは父が抗議の手紙しか送ってないのを知っている。

国王命令の婚約を破棄するには国王と父親のサインが必要なのだ。

リーナはエリオルにお礼を言って父が帰ってくるまで待っていた。

夜になり父が帰宅し、直ぐに話を付けに行くリーナ。


「お父様は大事な娘が不幸になるのを分かっているのに、まだ嫁がせるつもりでいるんですか!?」

「あー…いや…そう言うわけではないんだが…。そもそも第5王子は愛ゆえの冗談だと言っているらしい。」

「まあ!私を蔑ろにする冗談を愛ゆえと!!…婚約破棄を正式にして頂けないなら出家し私はシスターになります。それではお父様、さようなら、お元気で。」


リーナは憤慨しながら父の部屋を出て行き出来るだけ質素な服と教会に受け入れられなくても当分生きていけるように宝石やお金をカバンに詰め夜だというのに屋敷を後にした。

リーナが住んでいる大きな街は王都に近い事もあり治安が良かったが念の為、馬車で教会へ向かった。

教会は夜になると大扉がしまってしまうが、教会の正面ではなく横にいつ誰が来ても良いように鍵が掛かっていない扉があるのでリーナは横扉から教会に入った。

横扉から入るとベルが鳴る仕掛けになっていたらしくベルの音が教会に響き渡った。

しばらくするとエリオルが寝間着のままやって来た。


「ノース公爵令嬢!?こんな夜分にどうしたんですか!?」


エリオルはリーナを心配しながらリーナに怪我が無いか確認をする。


「家を出たの。出家したいの。」


リーナがどこも怪我をしていない事を確認し、ため息をつくエリオル。


「詳しい話を聞きましょう。どうぞこちらへ。」


案内されたのは懺悔室ではなく教会と繋がっているエリオルの家だった。

エリオルに温かい飲み物を貰い一息つくリーナ。


「それでどうしたと言うのです?」


リーナは先程の出来事を話した。


「…ノース公爵令嬢…」

「その名で呼ばないで下さい。イライラしてきます。」

「あー…それでは…リーナ様…?」


リーナは名前を呼ばれ嬉しくなったが今はそれどころではないので無表情を貫いた。


「気に入らないからと言って感情に任せて家を出てはいけません。夜は特にです。治安が良いといってもいつ何処で何か起こるか分からないのですよ。」

「ちゃんと馬車で来ましたわ。」

「なる程。そこは冷静に行動をしたのですね。」


話しているとベルが鳴り教会へ向かった。

リーナは温かい飲み物を一口また一口と口を付ける。


「リーナ!!やっぱりここだったか…。」


エリオルを押しのけ父がリーナに駆け寄る。


「お前が出家をしたいと願う程、第5王子との結婚が嫌なのか。」

「嫌です。冗談だったとしても婚約者としてやってはいけないと思いますし、あの性格が受け入れられません。…それにお父様には秘密にしていましたが密かに想っている方がおります。」

「なっ!?」


リーナは父を真っ直ぐ見つめ王子がまともな人間だったら恋を諦め王子を愛そうとしていたが、不誠実な人間だと分かった今王子と婚約続行はしたくないし想い人と一緒になりたいと考えていると言った。


「…ではあくまで婚約破棄の原因は王子にあると言いたいのか。」

「全てとは言いませんわ。私も心の奥深くに別の男性が居るんですもの。」

「取り敢えず、帰ってから詳しく話そう。エリオル牧師様、我が娘が大変ご迷惑を掛けました。これは我が娘を無事教会に連れて行ってくださった二人の神への感謝の気持ちです。」


父はそう言ってエリオルに小袋を渡した。


「お心遣い感謝いたします。」


父がリーナの持って来たバックを馬車に積みに行った。


「私の想い人はエリオル牧師様、貴方様です。」

「っ!??」


にっこり微笑み父と共に教会を後にしたリーナ。

教会に一人残されたエリオルは耳元で囁かれた言葉を思い出し耳元が赤くなっていた。


「主よ…これから私はどうすれば良いのですか…?」


月に照らされた二人の神のステンドグラスを見上げるエリオル。

人を愛する事は皆平等と考えられている宗教の為、一般的な牧師やシスターは結婚出来るが現在の名前を剥奪もしくは返上し新たな名前で今後生活をする牧師、シスターは結婚出来ない。

リーナ後者になる為に家出をしたのだった。

エリオルは名前を返上した牧師ではない為、自分が望めば結婚が出来るのだ。


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