第8話 貞操観念の凄いエルフ
「この私の貞操が危ないところを助けてくださり、誠にありがとうございました、旅のお方。なんとお礼を言ったらいいのか……」
非常に豊かな胸を二の腕で挟み込むようにして丁寧に頭を下げるエルフの美少女。うむ、とても良い。
「いや、お礼なんてそんな……」
そこまで恐縮されるほどのことではない。俺も実戦で人に対して魔法を使ったのは久しぶりだ。ダンジョンで魔物相手ならそんなに遠慮しなくてもいいが、人間相手となると迂闊に殺すわけにもいかないので出力の調整が必要だ。これから先の旅に向けて、いいウォーミングアップになった。
「いいえ、助けてもらってお礼をしないわけには参りません。ですのでどうか、この体でお返しを」
「……ん?」
「私の名前はローリエ。旅の途中であの人間達に捕まり、どこかへ売られるところでした。よくぞ、救ってくださいました。あなたは私の恩人です。この身と心を捧げます。さぁ、どこか人目につかない場所で遠慮がちに楽しみましょう」
「……」
楽しむ、とは……?
あれ、エルフってこんな感じだったっけ? もう少し身持ちの固いというか、融通効かない種族ってイメージが俺の中にある。たまたま俺の知ってるエルフがそうだっただけだろうか。この娘は何というか……かなり開放的だ。
「グレン!」
と、そこへ馬を操りエリナが戻ってきた。遠巻きに様子を窺っていたのだろう。ケリがついたと見て帰ってきたか。
「大丈夫? その子は?」
「野盗に捕まってたみたいだ」
「ローリエです。今し方、こちらの御仁の伴侶となることが決定致しました」
「……は?」
「致して無い!」
その後、俺の必死の説明によりエリナの誤解は無事に(?)解けた。
野盗達について、頭目と思しき奴と側近らしき奴を生き埋めにしたまま放置し、使いっぱしり二人に命令して荷馬車の御者をやらせることにした。
荷台にエリナとローリエ、俺は自分の馬を駆って並走。荷物の一部を荷台に積み替えたから馬もさぞや身軽になったことだろう。
「で、お前らはローリエを拐ってどうしようとしてたわけ?」
俺が話し掛けると二人の野盗は肩をビクリとさせて緊張した面持ちになった。下手な回答をすればまた埋められると思ったのだろう。
今みたいな昼間ならまだしも、夜の森は危険だ。魔物も野性動物も出る。他の盗賊がウロウロしてるかもしれない。頭目と側近はガッチリ土を固めて生き埋めにしておいたから、易々と出ることは叶わないだろう。精々、恐怖の一夜を過ごすがいい。
「お、俺たちは頭に命令されてやってだけで……」
「質問に答えろよ」
「はっ、申し訳ありません! エルフの若い娘は高値がつくので、売り捌くつもりだったみたいです!」
「誰に?」
「奴隷商人と城下町で落ち合う予定になっていたようです」
「王のお膝元で?」
随分危険なことを。
「安全な取り引きだと、頭は言ってました!」
「奴隷売買、しかもエルフの売買は重罪だぞ。場合によっては発見次第処断されることもある」
きっと頭目に言いくるめられてこき使われていたんだろう。こいつらが取り引きについて詳しく知っているはずはない。端金で雇われたかな。
「まぁ、いいや。今から俺がお前らの頭目だからな。逆らったり逃げ出したりしたら、わかってるよなぁ?」
俺は人懐っこい笑顔をして見せる。こんなセリフにこの笑顔、こいつらにとってはさぞや恐ろしく映るだろう。
旅はまだまだ始まったばかり。ちょうどいいから足に使ってやろう。