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第14話 夢の続き

 大森林はしっとりと夜露に濡れて寒々しく、そこに胡坐(あぐら)を掻いて座っているだけで地面の冷たさに体温がどんどん奪われてゆく。


 俺はモーラと二人、エルフの里から少し離れた森の中へとやってきていた。


「ここなら、アンタの力が暴走してもエルフの連中に被害は及ぼさないだろう」


 これはモーラの配慮だった。俺が記憶を取り戻した瞬間に、この頭と体に、封印されていた古代の王の力の全てが一度に流れ込むらしい。それを俺が受け止められなければ、力が暴走してしまうようだ。どんな被害が出るかは予測がつかないようなので、俺達は二人っきりでここまでやってきたというわけ。


「さて、心の準備は?」


「いつでも。アンタを完全に信用したわけじゃないが、俺も過去が消えたままじゃぐっすり眠れない」


 あの悪夢を、終わらせなければ。それに、俺は知りたい。過去、この俺に何があったのかを。


「いい顔だ。その歳になるまでに相当な数の死線を潜ってきたみたいだね」


「死線は……あぁ、もちろんだ!」


 意外と気楽に暮らしてきたのだが、もうそういう小さなボケを放り込む空気ではない。いつから俺の物語はこんなにシリアスになってしまったんだ!?


「これからアンタの頭に、アタシの鎌を突き刺す。アンタの記憶を封印している鎖を、切り裂いてやるよ」


 モーラの手から黒い魔力が溢れ出し、大鎌を形成した。そして鎌を俺の頭頂部へと添える。


「痛みはないし、一瞬で終わる。身動きするんじゃないよ、狙いが外れて脳みそを抉り取られたくなければね」


「お、おう……出来れば優しくお願いします」


 モーラの鎌が、その先端がゆっくりと下がり始める。俺の脳天に何か異物が潜り込んだ感触。感じるのは熱さだけ。モーラの言う通り、痛みは全く無かった。


「見つけた。これだね」


「え」


 モーラの言葉を聞いた直後、俺ははっきりとその音を聞いた。ブツリと、何かが俺の中で切れる音を。そして直後、俺の視界は一瞬にして暗転した。



 景色は、一変していた。

 俺の意識はエルフの大森林から、あの夢の中へと降り立っていた。


 足元で光り輝く魔法陣。周囲を取り囲む魔導師達。


「グレンよ、今からお前の力と記憶を封印する為の儀式を執り行う」


 王は、俺の正面に立ち(おごそ)かに告げる。


「あ、あなたは!?」


 シャイア族の現王アルトゥーラ。それは、俺がよく見知った人物だった。

 

 魔法陣の輝きの中で俺は頭が重くなり、やがて意識を失う。そう、これまでの夢の中ではその筋書きだった。しかし今は違う。意識を封じる鎖を断ち切られた俺にはその続きが、見える。


「この者を座敷牢へ」


 アルトゥーラの命令。

 魔導師達が糸の切れた人形と化した俺の両脇を抱え、引きずっていこうとする。


「アルトゥーラ様! 弟を、グレンをどうするつもりなのです!?」


 漆黒の長髪と紅い瞳の少女は幼き頃のモーラ・レオンハートだ。間違いない。


「この者は私が管理する。案ずるでない、獅子心王(レオンハート)の片割れよ。そなたの弟は私が必ずや、偉大な魔導師にしてやろうぞ」


「管理とは!? グレンに何を!?」


「この者の身に宿りし力は我々の想像を遥かに超えている。故に私はこの者の意識を、その時が来るまで封印し続けることとする。やがてはこの者こそが我らシャイア族の偉大なる導き手となるだろう」


 アルトゥーラの手が俺に触れようとする寸前、俺を引きずっていた魔導師達が、バラバラになって吹き飛んだ。大鎌が(ひるが)って、周囲にいた者達を全て斬り殺してゆく。


 強い力で俺の体は後ろに引っ張られ、放り投げられた。

 血溜まりの中を、俺は転がった。

 見渡せば至るところに頭や腕や、足や、胴体や……。


「大丈夫、あなたは誰にも渡さない」


 柔らかな手が、肩に触れる。

 見上げればそこに、漆黒の長髪を振り乱し、紅い瞳で俺を見下ろす幼き日のモーラの姿。


「おやすみなさい、グレン」


 俺の瞼は下ろされた。



 そして俺の意識は夢の世界から浮上し、肉体へと舞い戻った。


「そうだったのか……」


 開かれた俺の目に、大鎌を構えながら俺の目の前に座るモーラの姿が映る。


「見えたかい?」


「あぁ」


「器は、成っていたようだね」


 鎌が霧散した。モーラは俺の暴走に備えて武器を持ち待機していたのだろう。

 だが、俺は力を制御できた。自分でも驚くほどすんなりと、俺はそれを受け入れた。


 立ち上がる体に感じる、かつてない程の魔力の充実。そして取り戻した記憶の中で、俺はシャイア族の現王アルトゥーラの正体を知った。


「まさか、あの人がアルトゥーラだったとは……」

 

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