第7話 奴隷エルフを助けよう
俺に向かって振り下されてきた大剣は眩く発光した直後、消滅した。
「何ぃー!?」
手の中の得物がいきなり無くなり、驚く野盗。
「魔素分解だよ」
俺の右手、人差し指に宿るは赤き光。物質を変性させ形を組み替える術式。本来は研究用にしか使いたくないが、こうやって戦闘に応用することも出来る。
俺なら手で触れたものを瞬間的にバラバラに分解することが可能。再構築を考えなくていいから慎重にやらずに一気に魔力を放出するだけの実に楽な作業だ。
「しゃらくせぇ!」
「殺せ!」
両側から迫り来る野盗に対し、俺は左足で地面を踏み鳴らした。
大地が波打ち、男達の足元の土がいきなり柔らかくなって陥没する。
「ぐわーっ!」
「ひえっ!」
即座に腰あたりまで地面にのみこまれた野盗は武器を取りこぼし、たまらず悲鳴を上げた。一度で4人を戦闘不能状態にしてから、俺はもう一度地面を踏む。今し方、魔素分解によってドロドロにした土を元の状態へと復元したのだ。これで野盗は完全に体を拘束されてしまった。
「ちょっとおとなしくしておいてね」
地面に転がった武器を全て分解して無力化、安全を確保した俺は先刻からガタガタと揺れている荷台へと歩み寄った。
「人拐いか?」
地面から生えた野菜みたいな姿で暴れている盗賊達に問うも、答えてはくれない。だったら自分の目で確かめるだけだな。
覆いを一気に取り払い、中を覗き込む。
「ひっ」
短く甲高い悲鳴。しかし口に布を噛まされていて声はくぐもっていた。
「おいおい……こいつは……?」
紺碧竜のそれよりも遥かに澄んだ水色の瞳、抜けるような白い肌、はっとする美貌、そして種族的特徴である鋭角的に尖った耳。
「エルフか?」
こくり、と少女は頷く。
「人拐いどころじゃないな。こういうことするから、人間とエルフの仲が悪くなるんだよなぁ」
溜め息をつきながら、エルフの口を覆い後頭部できつく縛られた布を外してやり、両手両足を拘束するロープを解く。
「大丈夫かい?」
基本的にぶっきらぼうな俺だか、とぼけた顔立ちのせいで悪人には見られにくい。今みたいな状況だとこの特徴は有利に働く。
「……あなたは?」
瞳と同じくらい透明度の高い声音で、少女が俺に問う。荷台の上で体を起こした少女から放たれる清涼な香り。神霊樹を加工した服か。だったらこの子は、エルフの中でもかなり高位の存在ということになる。
「グレン・レオンハート。たまたま通りかかった旅人だよ」
少しだけ笑いかけてやると、擦り傷だらけの少女の表情が見る間に崩れ、大粒の涙が目尻を伝わった。
「こ……怖かったです……うわあぁん!」
いきなりガバッと抱きつかれた俺はそのまま地面に押し倒された。全身で感じる柔らかさ! 思いの外、豊満! 良き!