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第6話 ワイルドな奴ら

 中天の太陽から注がれる強い日差し。

 それを全身に浴びながら元・主任宮廷薬法師であるこの俺、グレン・レオンハートは幼馴染のエリナと共に山間の道を進んでいた。質屋の店主が見繕ってくれた馬はとてもタフで、一向に疲れる気配がない。


「野宿は危険だし、今日中に隣町までは到着しておきたいけど……疲れてないかエリナ」


「うん、平気」


 幼馴染は元気そうだ。彼女もかつて、俺と一緒に牧草地帯で家畜の世話をやっていた経験から乗馬は慣れていた。


「まぁアンタとこんなに長時間密着しているのが不満ではあるけれど!」


「そりゃどーも」


 このような軽口を叩けるうちは大丈夫だろう。エルフの国アルフヘイムまではまだまだ遠い。いくつもの町を経由し何度も山越えをしなくてはならない。

 道中で翼竜(ワイバーン)使いを発見できたら、空を飛んで移動も出来ようが、望み薄かな。純粋な人間で翼竜を手懐けられる者は少ない。ヤンク王国の宮廷にも数名しかいなかった。


「子供の頃はあんなに乗馬が下手だったのに、今じゃ手慣れたものねグレン」


「今でも上手じゃないさ。まぁ経験値溜まったからね」


 知的探究心。これこそが俺の原動力だ。運よく宮廷主任薬法師となれた俺は、潤沢な資金を使って何度も遠征を行った。難易度の高いダンジョンの奥深くまで潜ってレアな素材を獲得したり、森の奥の遺跡でトラップやゴーレムに追い掛け回されたり、なかなか楽しい日々ではあった。


「まぁこれからは……長い付き合いになるだろうけど、改めてよろしくな」


「何度も言わないでいいよ。腐れ縁だし」


 はにかむエリナの顔を見て、ちょっとドキッとする俺。いつまでも子供だと思っていたらいつの間にか妙に色気が出てきやがって。そうか、時間が経って俺もエリナも成長したってことなのか。もう互いに子供ではないんだね。


 と、順調に道を進んでいた俺はそこで妙な物音に気付く。


「ん、誰か向こうからやってくるな」


「えっ?」


 エリナはその存在にまだ気づいていない。


 俺は手綱を引いて馬を静止すると、鞍から下りて前方へ視線をやった。


「あれは……」


 二頭立ての荷馬車を駆り、いかにも物騒な男達が近づいてくるのが確認できた。獣の皮を加工した服を纏い、鼻歌を口ずさみながらこっちへやってくる。


「あんまり、お近づきになりたくない連中だな。エリナ」


 馬上の幼馴染に声をかける。


「え?」


「その馬と一緒に、ちょっと下がってろ」


「アンタ、一人で戦う気!?」


「戦うかどうかはあっちの出方次第。どうあれ……“戦いにはならない”と思うよ」


 こちらを値踏みするように睨んでくるワイルドな風貌の男達。野盗だろうな。

 ゆっくりと荷馬車を止め、荷台から二人、そして馬上の二人も地面に降りてきた。

 計4人。


 男達の目は、俺を通り越してエリナの方を向いていた。


「ヒャッハー、美女だー!」

「男の方は殺して」

「女は奪う」

「殺して、奪う。それから楽しむ。これが俺達ブラック・シープ団鉄の掟!」


「……どう考えても話し合いで解決は無理そうだな」


 目線を動かし、エリナとアイコンタクトを取る。さすがにここまで来るとエリナも素直に言う事を聞いてくれた。


「死なないでよ」


「当たり前」


 エリナが手綱を握って馬を後方へ振り返らせ、駆け出した。


「やい、逃げるな、女ぁ!」

「追えーっ!」


 棍棒やいかにも質の悪そうな大剣を手に、4人の野盗達が向かってきた。


「俺のことは眼中にないって感じだな」


 ここで一つ、基本的な確認を。


 “薬法師”というのは薬学と魔法を組み合わせた独自の技術体系を修める者達に与えられる称号のこと。

 “薬”にももちろん精通しているが、“魔法”だって使える。


 今、先陣を切った野盗の振り下す大剣が俺の頭上へと迫る。


 ゆっくりと、俺は右手を持ち上げた。


 パァン!


 音が、爆ぜた。


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