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第2話 夜の散歩

「ええーっと、血塗れの夢……血塗れの……このページか。ふむふむ、『血、血液、臓物などにまみれている夢はあなたが欲求不満であることを示しています。端的に言うとムラムラしていますね?』 だって!? 俺、欲求不満だったのか!」


 書庫の本棚から夢占いの本を一冊、適当に抜き出して読んでいると、ちょうど該当する項目を見つけることが出来た。だが……。


「『性欲が溜まっている時はエロフを抱きましょう。溜まっていなくても定期的にエロフを抱くと健康になれると思います』……か。ってこれ、エロフの書いた本やんけー!」


 一人虚しくツッコミをやって、俺は本を棚に戻した。


「あー、バカらしい。こんなもの、なんの気休めにもならんな。研究室にでも行くか」


 そう言えば新作のポーションの完成もそろそろだ。慌てる必要は無いのでのんびり作業しているが、エルフの国は本当に素材が豊富でいい。狩人も気のいい者達ばかりで、しょっちゅう色んな魔物を狩って持ってきてくれる。


 エルフの国、アルフヘイムへやってきてから早一か月。季節は移ろい、もうすっかり冬だ。アルフヘイムの山々は真っ白に冠雪しており、風情はあるのだがとにかく寒い。暖炉や火炎魔法、あるいは分厚い毛皮を着こむなどして体温を保たないと途端に凍えてしまう。

 俺も今は狼の毛皮で作ったジャケットを上着として羽織っている。


 広葉樹の太い幹から幹へと渡された、エルフの樹上都市の廊下を進む。木の板が俺の足元でギシギシと鳴る。


 俺の研究室は世界樹のすぐ傍にある。天衝く威容を誇るユグドラシルの目と鼻の先、エルフの魔導師達が寄り添って生活する一角だ。


 そこへ向かう途中、見知った顔に遭遇した。


「よぉ、ローリエ」


「あれぇ、グレンさんじゃないですか。こんな夜中に一体何を?」


 ローリエはふかしたイモを両手で抱えながら、頬張っていた。夜食かよ、わざわざ外で?


「寝付けなくてね。研究室にでも行こうかと。ローリエは?」


「お腹が空いたので」


「こんな時間に食べてたら太るぞ?」


「大丈夫です、栄養は全部、私のおっぱいが吸収してくれますから!」


 胸を張って、立派な双丘(そうきゅう)を見せびらかすローリエ。うーん確かに、こっちに来てから更に成長した気はするが……。


「あ、でも研究室なら今は先約がありますよ」


「お、そうか」


「ねぇねぇ、面白いから見に行きません?」


「面白い?」


「ほら、いいからいいから!」


「お、おい、何だよ!?」


 素早く腕を絡めてきて、ローリエは研究室へと俺を引っ張っていった。


 太い枝と枝の間に挟まるようにして存在する木製の小屋。そこへ続く階段を、足音を立てないようにして上る。

 窓から明かりが漏れているから、中に誰かがいるのは分かる。


 ローリエと並んで屈みこんで、窓からそーっと顔を出して部屋の中を覗く。


「実はさっきまでおイモを食べながら覗き見してました」


「お前なぁ……」


 室温と外気の差が大きいので窓ガラスが曇っている。俺は指先をガラスに密着させ、細く穴を穿(うが)った。これで声はよりはっきり聞こえるようになるだろう。


 まぁ、誰が中にいるのか予想はつくけど。


「ほら、ホーリィさん、もう一度最初から!」


「えー!? またやるのぁ?」


「またやるのぁ? じゃありません! あなたの術式は雑です。再現性に乏しい。魔素分解は薬法師の基本中の基本、10回やったら10回とも同じ結果を導かねばなりませんよ。さぁ!」


「はーい! ユナちゃん!」


 やっぱり、ユナか。俺の研究室をこんな深夜に使うのはあいつ以外に考えられない。だがホーリィも一緒とは意外だ。それにどうやら、ホーリィはユナから魔素分解についてレクチャーを受けているようだ。


「あの二人、意外とウマが合うようですね」


 ローリエが言う。


「そうなのか?」


「最近はよく一緒にお勉強してますよ」


 知らなかった。このところ俺、一人で作業していることが多かったからな。


「で、ローリエはどうなんだ? 最近」


「私ですか? えーっと……朝起きてー」


「うん」


「朝ごはんを食べてー」


「うんうん」


「ゴロゴロしてーお昼ご飯を食べてーダラダラしてー晩御飯を食べてー、あと、ええっと……寝るだけです。あ、たまに夜食も食べます」


「飯食って寝てるだけじゃねぇか!」


「はい、特にやることありませんからね!」


 そろりと、ローリエは猫のように近づいてきて、俺の胸元で鼻をヒクヒクさせた。


「おや、何か匂いますねぇ……これはエルフの、しかも妙齢の女性の匂いですね?」


「は、はぁ!?」


「今、動揺しましたね!? 図星ですか!? 誰と寝たんですか!? この私とはいつ寝てくれるんですか!?」


「ちょっと、声が大きいよ! ローリエ!」


 って、さすがにうるさくし過ぎたか。ドアが勢いよく開けられて、そこに仁王立ちになったユナがいた。


「こんなところで、何をコソコソされているのです? 二人とも」


「あ、いや、たまたま通りかかっただけで……」


「グレンさんに女の影があるんで問い詰めていただけですよー♪」


 と余計な事を言って、ウィンクするローリエ。おい、話がややこしくなるだろ!





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