第21話 開票速報
「皆さーん! よろしくお願いしまーす! ライネ市長選はゼンノ候補、ゼンノ候補への投票をよろしくお願いいたしまーす!」
というわけで俺は最後の策、“投票所前での握手大作戦”を開始したのである!
投票に訪れた住民達、可能な限り全員と固く握手を交わし、しっかりと目を見て、
「よろしくお願いします!」
「ゼンノ候補を!」
「エルフの森を守ろう!」
真心込めて語りかけていった。
「おい、兄ちゃん! 俺ぁゼンノに入れるぜ! 任せとけ!」
嬉しい言葉をもらう。
「ねぇねぇアンタ、本当にゼンノに投票したら追加で金貨、くれるんでしょうねぇザマスか!?」
マダムは不審そうに訊きながら俺と握手してくれる。
「チクショウめっ!!! マッツォ!!!! 投票しに行くよ!!!!」
「オスッッ!!! 店長ッッッ!!!!!!」
いつぞやのボッタクリステーキ屋の連中もやってきた。こいつら……どっちに投票するんだろう?
一応、握手しておいた。
「あーっはっは! 何だよ何だよ、君ぃ!」
背後から、嘲笑と共にイーノが姿を見せた。
「こんな朝っぱらから一人で頑張るじゃないか。握手? 今更っ!? ハッ! 勝敗はもう決まったも同然なんだよね、君がいくらこんな地味なやり方で努力したところでさ!」
「やかましいなぁ、イーノ。お前、顔色悪いじゃないか? 金貨恵んでやろうか?」
「はぁ~~~? バカかよ、お前! 僕は金なんかいくらでも持ってるんだよ!」
「ふーん。じゃあエロフの美女を派遣しようか?」
「エルフの売女なんていらないんだよ! あーもう、君みたいなバカと話しているとこっちまでバカが移りそうだよ」
「お前から話し掛けてきたんだろ」
「いいよ、もう。ほら、行くぞ、アクラッツ」
まるでボディガードのようにイーノの傍に控えていたアクラッツが返事をし、二人は投票所へと入っていった。
イーノと元老院からやってきた見届け人達、そして選挙の両候補者は投票所へ入ることが許されている。
が、ゼンノさんはアイオミ区にはいないのでこっちは投票所の内部事情がまるで見えない。中でどんな不正が行われていても、外からはわからないってわけだ。
まぁそういうのを防ぐ為に王都から“公正に”選ばれた中立の立場の見届け人がやってくるのだけど。
「さぁ、そろそろかな」
中天の太陽を見上げ、俺は呟く。腹が減るので乾パンを齧り、エネルギー補給。
馬の蹄が地面を叩く音が聞こえてきた。ばっちり、俺が思った通りの時間だ。
「グレンさん!」
馬上にいたのはホーリィとゼンノさん。二人が戻ってきたという事は、リンチ区とヘイレン区の開票結果が出たということ。そして二人の慌てた顔から察すると……。
「どうした、ホーリィ?」
「リンチ区と、ヘイレン区が……」
「結果はどうなった? 教えてくれ」
一瞬、ホーリィは言い淀んだ。それから絶望的な表情で、こう言った。
「負けました。リンチ区もヘイレン区も、全員がアクラッツさんに投票を……」
「なるほどね」
いきなりの敗北。しかも、全ての票がアクラッツに集まるとは。
やはり、な。
その結果を聞いて俺は、思わず吹き出した。
「くくっ、そういう勝負がしたいわけだ」
「ど、どうしたんです? グレンさん!?」
「いやぁ、すまん。おかしくって」
いいね、本当にいい。
イーノのやり方は本当にわかりやすい。
こういうことをするのであれば、俺も遠慮はいらないな。
「とんでもないことが起こるぜ……これからな」