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第5話 グレン・レオンハートの追放が招いた事態

 主任宮廷薬法師グレン・レオンハートが解任され城を去ってから一週間が過ぎた。


「ムノー様、スグナオールEXの供給が滞っており、前線の兵士の士気が激減しております!」


 ムノー宰相のもとに(ひざまず)いた兵士から報告が上がる。

 こめかみに青筋を立てたムノーは、手元の紙束を荒々しく床に叩きつけ、悪態をついた。


「おのれ! どうなっておるんだ! グレンの奴がいなくなった途端、このような有様とは!」


 ヤンク王国と北東に隣接する人間と(オーガ)族の混成国家アグレス王国との領土争いが激化していた。国境線で続く小競り合いが兵士を疲弊させ、回復薬の供給が遅れていることで犠牲者の数も日増しに増えていった。


「宮廷薬法師は何をしておるのだ!?」


「それが……グレン様の残した製造技法書が……その……」


「あやつに“様”を付けるな!」


「はっ! 失礼致しました!」


「で、何だ? はやく言わんか!」


「それが……グレン・レオンハート氏の残した技法書が読めない、と」


「はぁ?」


「字が」


「字?」


「汚すぎて」


「はぁ~~~~~!?」


 グレンは致命的に字が汚かった。もともとこの地域では矢じり型の蛇がのたうちまわるような独特の文字が用いられているが、グレンの筆跡はもはや蛇が断末魔を上げながらもんどり打ってねじれたような、字なのか単なる模様なのかわからない程ひどいものだったのだ。


 グレン自身はレシピが完璧に頭の中にインプットされていたので何も問題なかったのだが、彼の仕事を引き継いだ薬法師は残念ながら、そんなに腕がよくなかった。自力で魔素分解と成分変換の式を構築することが出来なかった。


「それともう一つ、残念なお知らせが……」


 兵士が遠慮がちに言う。


「いや、もう聞きたくないわい……。ええい、申せ」


「グレン氏を慕う一部の薬法師が、城から逃亡しました」


 その報告を聞いてムノーは頭を抱えた。


「何故だ! あやつのどこにそんな人望が!?」


「今回逃亡した者達は皆、グレン氏により直々に薬法術を叩き込まれた優秀な術師ばかりだったようです」


「ムノー様! 大変です!」


 そこへ新たな兵士が大慌てで駆け込んでくる。


「かーっ! やかましいぞ! 今度は何だ?」


「宮廷魔獣使い(ティマー)達が助けを()うています! ティムした魔獣をおとなしくさせる薬、“魔チュール”が足りなくて制御できないと!」


「バカもん! そんなもの、力で抑え込めよ力で!」


「いえ、それが……宮廷ティマー達はみな、グレン様の薬に頼り切っていたようで……」


「あやつに“様”をつけるな! カァーーーー!!!!」


 痰を吐き捨てて、ムノーは地団駄を踏む。


「ムノー様ぁ! 大変です!」


 そこへ更に新たな兵士が息を切らせてやってきた!


「王国軍の一部の兵士が反乱を起こしました!」


「何じゃと! 一体どうなっておるんだ!?」


「グレン様の追放を快く思わない兵士達が兵舎を占拠し、戦地への派遣を拒否しています」


「“様”をつけるなぁ!!! 制圧せんか、さっさと!!! 使える兵は全員使って!!!」


「反乱した兵の数の方が多いので無理です」


「ぐぬぬ……」


「ちなみに私もこれから反乱軍に加わります」

「あ、俺も」

「俺も俺も!」


「ま、待たんか、貴様らっ!」


 呼び止めるムノー宰相を無視して、兵士達は立ち去ってしまった。


「まさかこんなことになるとは……」


 膝から崩れ落ちたムノーは弱弱しく声を上げる。


「誰か……誰かあやつを、グレンを呼び戻してくるのじゃ……」

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] するするっとテンポ良く読めて面白いので、続きがとても気になります。 慕っている人たちがたくさんいるのがまた、いいですね。
[良い点] おもしろーい! サクサクッと、読めてストレスフリーです! 早く続きが読みたいっ!
[良い点] いいですね~、爽快でスピーディなざまぁ。 〉「ちなみに私もこれから反乱軍に加わります」  「あ、俺も」  「俺も俺も!」 ここ好き♪
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