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第15話 国境線にて

 ライネ市長選挙まであと3日。

 ワイルド区、ヤンク王国とアルフヘイムの国境線にて。


 日が落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。


「ヴァレリア様、足元にお気を付け下さい」


 先導する弓使い(アーチャー)がアルフヘイム第一王妃、ヴァレリアに向けて注意を促す。


「分かっています。何度も言っているでしょう。この私を子供のように扱わないで結構ですよ」


「はっ、これは失礼致しました。差し出がましい真似を」


 恐縮し、帽子のツバを持って深く被り直す弓使い。


「あなたの配慮には感謝しています、ヌーク。いつもありがとう」


「勿体ないお言葉です、王妃」


 木立の向こうに、焚火の明かりが見えている。国境線を守備する人間の兵士達があそこにいる。この森から外へ出れば、彼らに勘付かれて攻撃されるかもしれない。そんな危険な場所へわざわざ、ヴァレリアは赴いてきた。


「これ以上は危険です」


 ヌークがそっと、ヴァレリアの前に手を伸ばし制止する。そして弓を携え、矢を(つが)えた。


()てはなりませんよ。我々は争い事の為にやってきたのではありません」


「わかっております、ヴァレリア様。しかし人間どもが先に矢を放ってくるかもしれません(ゆえ)


 国境線には多くの弓使いと魔導師が配置されている。指示を出したのはヴァレリア。人間側からいつ攻撃があるかわからない。この森はエルフのホームグラウンドであり、この中に誘い込めば人間を倒すことは容易いが、彼らとてそこまで愚かではない。


 人間が本気で侵略を考えたならまず、森の木々を焼き払おうとするだろう。それから兵を動かすはずだ。


 森はエルフにとって大事な生活圏だ。この自然と共に、エルフは生きてきた。大切な森を守らなければならない。

 国境線に陣取る魔導師の主たる役目は火を放たれた時の消火と、仲間の回復。戦いは弓使いが主導となる。


「しかし今朝は驚きましたね。あのローリエが戻ってくるとは」


「ええ、姿を消してから数か月、てっきりもう殺されたか奴隷として人間に売られてしまったものかと」


「しかも、エロフの連中と何やら交渉していたそうですよ」


「その件については私の耳にも入っています。一体何をするつもりなのか、興味はありますね」


「問い詰めなかったのですか?」


「彼女に任せます。ローリエは少し奔放すぎるところはありますが、悪事を働くような子ではありません。あの子なりの考えあっての行動でしょうから」 


 この場所に立ち、実際に自分の目で国境線の兵士の姿を見、ヴァレリアはエルフと人間との間の緊張感の高まりをひしひしと感じた。

 戦争へ向かう機運。肌を刺すような敵意。


 目を凝らし兵士の動向を注視していたヴァレリアだったが、ふいに彼らの中にざわめきが生じたのを見て取った。


「何でしょう、急に騒がしくなりましたね」


 ヌークもそれに気付いたようだ。


「あれは……」


 魔力による補助で夜目を効かせているヴァレリアの視線の先に、鮮やかな赤髪が映った。


「そんな、うそ……」


「どうなされました? ヴァレリア様」


「どうして彼がこんなところに……」


 兵士達に向かい何か話している男、それは紛れもなく“彼”に他ならなかった。

 忘れもしない。忘れたくても忘れられない。


「グレン」


 その名を呟いた時、ヴァレリアの目から一筋の涙が零れていた。想い人は突如、彼女の前にその姿を現したのだ。



 同時刻、ワイルド区と同じく国境線が接するローズ区において、とある事件が起こっていた。

 それはグレン・レオンハートの策略。ローリエが自身に与えられた使命を全うし、今、選挙戦本番へ向けた大攻勢は開始されたのだった。

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