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第14話 明かされる真実とグレンの決意

 町の片隅の、薄暗い裏路地に俺は連れてこられた。周辺を兵士達が封鎖し、この場所には俺とイーノの二人だけとなった。誰もここに立ち入る者はいない。


「プライバシーへのご配慮、ありがとうございます。イーノ総督」


「はぁ……もういいよ、そういうのは。面倒だから腹を割って話そうよ」


 大きなため息をついて、イーノは言った。


「と、言いますと?」


「君はどうしてゼンノなんかの味方をしているの?」


「何だ、そんなことですか。なら答えは簡単です。エルフは、悪い種族ではないからです」


「だがヤンク王国とアルフヘイムの国境線では何人もの兵士が実際に殺されているんだよ?」


「それは国境線を人間が冒したからでしょう? あちらからすれば正当防衛です」


「いいや違う。少なくとも僕は部下から、エルフが先制攻撃してきたと報告を受けている」


「そんなもの、後からどうとでも言えますよね」


「君の今の発言だって同じじゃないか。国境線を人間の方が冒したなんてどうして断定出来るんだい?」


「確かに、あなたの言う通りですね。前言撤回しましょう。俺は単に、エルフの方に肩入れしているだけです」


「よろしい、レオンハート君。では人間であるはずの君がどうしてそんなにエルフの肩を持つのか、その理由を聞かせてもらおう」


「理由ですか」


 かつて、俺はアルフヘイムでエルフ達と一緒に過ごした時期がある。強力な猛毒竜(ニーズホッグ)の群れが湿原を荒らし回っていると聞き、王国正規兵団と魔導師、俺を筆頭とする薬法師の混成部隊が協力に赴いたのだ。

 この時もムノー宰相はエルフの国からの救援要請を無視しようとしたが、俺がアルトラ王に直訴して何とか派兵まで持っていけた。


 猛毒竜を駆逐するまでの期間、俺はアルフヘイムで多くのエルフと一緒に過ごした。彼ら彼女らは一様にとても理性的で、俺の薬法にも興味を持ってくれたし貴重な意見交換や技術交換の場ともなった。

 俺はエルフが平和な社会を心から望んでいることを知っているし、無用な争いを好まない種族であるとちゃんと理解している。


「エルフはあなたが考えているほど野蛮な種族ではありません。彼らとの共存は人間にとってもきっと、有益なものになります。だから俺は、エルフとの良好な関係を築きたい」


「ふぅーん、なるほど」


「お願いです、イーノ総督。アクラッツ候補が当選するのは構いません。ですがアルフヘイムへの侵略はどうか思い留まっては頂けませんか? もし、エルフとの仲を執成(とりな)す必要があるのなら俺が、その役をやります。ですから」


「君、何か勘違いをしてはいないかな?」


「……は?」


 イーノが邪悪に嗤った。とても不吉な予感がした。


「この僕が君のそんな言葉に(ほだ)されるような器だとでも?」


「どういう意味です?」


「僕は君のような小物ではないんだよ。この僕の双肩(そうけん)にはヤンク王国の未来が重く圧し掛かっているのだ。たとえエルフが君の言うような素敵な種族だったとしても、だ。王国の発展の為になるのなら、侵略し支配下に置かなくてはならない。奴らはとてもいい資源を持っているそうじゃないか。魔法の知識にも長けているんだろう? だったら僕は涙を呑んで、その領土を奪いに行くよ。国家の為、民の為だね」


「お前……本気で言ってるのか?」


「おおっと、急にどうしたんだいレオンハート。そんな怖い顔をして。あ、そうだ! ねぇねぇ、君、近う寄りたまえ」


 イーノが俺を手招きする。それに応じ近づくと、こっそりと俺に耳打ちしてきた。臭い息が不快だ。


「それにね、エルフの女というのはとてもいいんだよ、アレの具合がね」


 ……コイツは一体、何を言っている?


「ここだけの話、僕は別邸でたくさん飼っているんだ。とびきりの美少女ばかりだよ。目利きの確かな奴隷商人に上玉を選ばせてね、こっそりと運び込ませているんだ。君も女は好きだろう? どうせ使い捨てるなら人間より断然エルフだよ、君。長持ちするし、変な病気の心配も無いしね」


「イーノ、お前……」


 まさか、コイツなのか。

 コイツが、エルフの奴隷売買の元締めか。


 だったらローリエの誘拐と城下町での身柄の引き渡しも、その首謀者はコイツだったというのか。


「どうだい、僕に協力してくれたら君にもエルフの美少女を好きなだけあげるよ。何なら一緒にアルフヘイムへ狩りに行こう。ワクワクしてくるだろう?」


「なるほど……よく分かりました」


 知らず知らず、俺は拳を固く握りしめていた。全身の血管が沸騰するように熱い。眩暈(めまい)がしそうなほどの怒りが、胸を焼く。


「おっ、分かってくれたのかい!? じゃあ握手しようじゃないか! 一緒にエルフを」


 パァン!


 差し出されたイーノの手を、俺は払いのけた。思わず魔素分解でコイツをバラバラにしてしまいそうになるのを、ぐっと堪える。まだだ。直接手を下すのは造作もない。だが、楽には死なせない。コイツは……コイツだけは!


「本当によく分かったよ、イーノ。お前が、どうしようもない、最低最悪のクズ野郎だってことはな!!!」


「何だと!? 貧民めがっ! この僕に対して何たる暴言! おい、お前たち! こいつを」


 イーノが言い終わらないうちに、俺は襟元を掴み、その憎たらしい顔をぐいっと引き寄せる。


「近寄るな!」


 俺の全身から立ち上る真紅の魔力を見、兵士達が動きを止めた。そうだ、それでいい。下手な動きをすれば、興奮した俺は何をするかわからないぞ。


「うわっ、暴力かい!?」


「いいか、よく聞けよクソッタレ。今、この場でお前を殺すのは勘弁してやる。あくまでお前は選挙戦で倒す。だが、もしお前がルールを破り俺の仲間に手を出そうとしたら……俺はもう容赦はしない。お前も、お前の部下の兵士達も、全員殺す。いいな、全員だ!」


 醜いデブを突き飛ばし、俺は道を塞ぐ兵士を睨んだ。


「どけ。消し炭にするぞ」


 怒りが、俺の肉体から解放されたがっていた。魔力の奔流を止められない。何か切っ掛けさえあれば、俺は本当に殺ってしまうだろう。


 兵士達は黙って道を開けた。俺はその間を抜け、大通りへと歩き出す。立ち去ろうとする背中に、イーノの言葉が投げかけられた。


「は、ははっ、こんな愚か者がいるんだなぁ。驚きだ! 本当に勝てると思っているのか!? バカ! とんでもないバカだ! 君は負ける。負けて大恥をかき、僕に許しを乞うことになるよ、きっと! 君の絶望する顔を見るのが今から楽しみだよ! あーはっはっは!!!」


 いいさ、言わせておく。


 もう覚悟は決まった。


 俺はイーノを、絶対に許さない!

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