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第4話 出立

「決めた。私、アンタについて行くわ。……って、何なのよその大金!?」


「えっ? 金目のものを換金しただけだよ」


「まさか……お城の財宝でも盗んできたんじゃないでしょうね!?」


「とんでもない! 俺の私物を売り払っただけだ。なんだよ、疑り深い目!」


 宿に戻ってくるなりこの調子。いやー実に落ち着く。幼馴染というのは気を使わなくていいから楽だ。それにしばらく見ない間にエリナも随分成長したようだ、色々な部分が。特に胸が。


「何をさっきからジロジロ見てんのよ」


「あ、いや、綺麗になったなと思って」


「……っ! もう!」


 宮廷生活が長いとこのようにお世辞くらいは真顔で言えるようになる。にしてもエリナが綺麗になったというのは本当だ。垢抜けて、美人になった。


 城を追い出される時に俺が持ち出すことの出来た品はそんなに多くない。数日分の衣類、薬法に使ういくつかの道具、いつか実験に使おうと思っていた素材が数点。あとは俺が作った薬が少し。今はここに金貨200枚が資金として加わる。


「ほら、無言でぼーっと突っ立ってないで、行く宛てはあるの?」


「えーっと、そうだなぁ。ヤンク王国にこのまま滞在しても疎ましがられるだけかもな。エルフの国、アルフヘイムでも行ってみるかな」


「大丈夫なの? エルフが人間をすんなり受け入れてくれるとは思えないけど」


「あー、多分、平気。昔ちょっと、エルフを助けたことがあるから」


 ヤンク王国の西側、深い樹海と山岳地帯、湿原を有するエルフの国、アルフヘイム。かつて俺は救援要請を受けて王国正規軍と共にアルフヘイムへ赴いたことがあった。その時に、ちょっとしたコネを作っておいたのだ。


「質屋で隣町への通行証も発行してもらえたし、まずはこの町を出ようかな」


 城下町に居座っていても、宮廷薬法師で無くなった俺にやれることはない。むしろ目に見える範囲で動き回っていたらムノー宰相に嫌がられるに違いない。


「またお前と二人旅だけど、昔みたいによろしく頼むぜ、相棒」


「しょうがないわね、アンタは放っておくと何をしでかすかわからないからね、ついていってあげるわ。どうせ……この店を続けていても儲からないしね」


 決断してからのエリナの行動はとても速かった。翌日には宿の建物を土地の所有者に破格の値段で売り払い、荷物を手早くまとめて支度を整えてしまった。


 質屋が用意してくれた馬は一頭。しかし(サドル)が大きいので小柄なエリナが前に座れば充分二人乗り可能だろう。


 漆黒の毛並を持つ馬はよく手懐けられ、おとなしくしている。幸いにして俺にも乗馬の経験はそこそこある。


 薬法師と言えばもっぱら後方支援専門、薬や回復魔法専門のサポーターというイメージがあるが実際にはフィールドワークや素材獲得の為に遠方の地や危険なダンジョンに飛び込むこともある。

 馬の扱いくらいは難なくこなせなくてはならないのだ。


「じゃあ早速、出発しましょ」


「あぁ」


 早朝、抜けるような青空の下、俺とエリナは二人で馬に跨った。理不尽な理由で宮廷を追われたものの、俺は特に動じていない。人生なるようになるし、なるようにしかならない。生まれが貧乏だったから今までの数年間が逆に恵まれ過ぎていただけだ。


 さぁ、新しい生活をスタートさせるとしよう。


 馬のいななき。

 (ひづめ)の音。


 ほんの少し首を下げ、馬は駆けだした。


 俺はエリナをしっかりと自分の体の前に抱き、手綱(たづな)を握る。

 相棒の顔にも、俺の顔にも、怖れや不安の色は無し。

 

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