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第9話 髪の毛が繋ぐ数奇な運命

「というわけなんですよ」


「大変よく分かりました。ありがとうございます。性癖のくだりは蛇足でしたが大目に見ます」


 改めてゼンノ市長候補と会い、更にライネ市について詳細を聞くことができた。


 ライネ市の5つの区を合わせた総人口は約1万人。そのうち農奴や遊牧民族、非定住者等の市民として登録されていない者と、参政権を持たない未成年を除くと、有効投票者数は約3000人程度になるそうだ。

その中心地であり最大の人口を誇るこの場所、アイオミ区が約2000人。リンチ区、ヘイレン区がそれぞれ200人程度。アルフヘイムと国境を接するワイルド区、ローズ区がそれぞれ300人ほど。

 これに加えワイルド、ローズの両区に在留している兵士達にも特例で選挙権が認められている。その数、平時で100~200名ほど。


 ということは、だ。他の区でどのような結果になろうとこのアイオミ区のみを押さえてしまえば当選出来てしまうのだ。アクラッツ派の動きがやたらと活発なのはこれが理由に違いない。他の区の状況を俺はまだ自分の目で確かめてはいないが、これほど過激な選挙活動はやっていないだろう。


 更にワイルド区とローズ区について言えば、そこに住んでいる多くの者がヤンク王国の正規兵であり、イーノ総督の部下に当たる。彼らが総督の意向に逆らってゼンノ市長候補へ投票するとは考えづらい。この二区はほぼ、アクラッツ一色になるだろうな。


「ねぇ、勝ち目無いでしょう?」


 何故か(ほが)らかに言うゼンノさん。もうちょい深刻な顔をして欲しいのだが。


「正直言って、厳しいです。こちらも卑怯な手を使うしかありません」


「ほほぅ、何か秘策が?」


「いくつか既に考えてはいます。しかしその前に、教えてほしいことが一つ」


「はぁ、何でしょう?」


「どうして、あなたはこの選挙戦に立候補されたんですか?」


 勝ち目が無いと分かっているなら、わざわざ命の危険を冒してまでアクラッツと戦う必要は無いはずだ。この人は一体、何を考えているのだろう。


「はっはっは、そんな事ですか」


「そんな事って……」


「いえね、私がもし立候補しなければ対抗馬が一人もいなくなってアクラッツさんがいきなり当選してしまうでしょう? 前任者はとっくに任期を終えていて、ライネ市長の座は空位なんですよ」


「だからって、あなたが出馬したところで意味はないのでは?」


「いや、意味はありますよ」


 ゼンノ市長候補は笑みを絶やさず、俺を見据えた。とても苛酷な選挙戦を戦い抜くような人には見えない。どこにでもいそうな、ただの一風変わったオジサンだ。


「エルフはそんなに悪い種族じゃありません。ウリエルと一緒にいて、私にはよく分かった。あの種族と争う必要は無いんです。むしろ我々は手を取り合い、互いに利するべく動けるはずだ。考えもなしにエルフへ戦争を仕掛けるのではなく、一度立ち止まって、頭を冷やして、考えて欲しかったんですよ。ライネ市民全員にね」


「ゼンノさん……」


「私の頭なんか至って冷静ですよ。髪の毛一本も残ってませんからヒエヒエです」


「……今、俺ちょっと感動しかけてたんですが」


「はっはっは、そんな立派な男じゃありませんよ私は。浅ましい人間です。この頭だって、昔、傭兵をやっていましてね。円形脱毛に悩んでいた時にとある少年からもらった髪が生えまくる薬の副作用でこうなってしまったんですよ。欲を掻き過ぎた罰ですな、はっはっは!」


「……」


 なーんかどっかで聞いたことのあるエピソードだなぁ。


「ねぇ、グレン」


 隣にいたエリナと目が合った。あ、やっぱり同じことを考えていた?


「最初は髪の毛どころか全身の毛もものすごい勢いで生えてきていたんですがね、ある日を境に急に全身の毛が抜け落ち始めましてね。まぁそんなに都合のいい薬なんて世の中にはないということですな」


「そ、そうですね……」


 ヤバい、どう考えても俺じゃん。俺が作った薬じゃん。本当にすまない、ゼンノさん。俺、本気であなたを応援することに今、決めました。

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[一言] 情けは人の為にならず(意味ではなく文字通り
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