第7話 ドーン!・オブ・ザ・デッドミート・イン・ライネ支店!!!
「オラァ! たったの銅貨3枚で一枚肉のステーキを食わせる店ェ! “いいなりステーキ”ライネ支店にご入店ありがとうございマッスルゥ!!!」
捲り上げた袖から覗く極太の腕の筋肉を誇示して、店員の男が言った。
胸に手作りのネームプレート。名前はマッツォ・バルクスキーと言うらしい。
「たらふく食べておいで!!」
カウンターの向こうから丸顔でふくよかな料理長の女性が叫ぶ。
「さぁ、これがメニューだァ!! ドォン!! どれにするんだ!!? 当店の本日のおすすめは今朝仕入れたばかりッ!! その辺の路上でくたばってた邪眼水牛の熟成腐りかけ肉だオラァ!!」
メニューをドーン!と置き、俺達に見せることなくすぐに小脇に抱えてマッツォは言う。声が非常にうるさい。
「あの……グレンさん。やはりこの店はやめておいた方が良かったのでは?」
ひそひそ声でホーリィが言う。
「そんなこと俺に言われても……」
路上で強引な客引きに逢い、半ば無理やり連れて来られた店だ。
「焼き加減はどうするんだァ!? レア、スーパーレア、ウルトラレア、レジェンドレア、ほとんど生、から好きなのを選ぶことが出来るッ!!」
「ちくしょうっ!! 当店のオススメはほとんど生だよっ!! クソッタレ!! あたしが焼き場担当のお団子頭と愛嬌がトレードマークのアン・ダゴンだよ!!! オーダー承りました!!クソありがとうございます!!!」
何も言ってないのに勝手にオーダーが通ってしまった!? 何たる理不尽!!
「肉を鉄板にドーン!! 高火力で一気に表面を炙り肉の余分な脂だけを落として肉の旨味を閉じ込めるよ!! さぁ5秒経ったね!! 皿に盛り付けるよ!!! へい、お待ちドーン!!! マッツォ!! お客様に提供しな!! 5000万パーセントの笑顔でねっ!!!!!」
「オスッ!! 店長!! ナイスバルクで素早くお届けッッ!!!!!」
真っ赤な(というかやや紫がかっている上に謎の斑紋がある……)血を滴らせたステーキ(?)が俺達の前に置かれた。きっちり4人分。強い芳香(腐敗臭)を漂わせるステーキ(?)は見るからに蠱惑的なルックスであり、俺もエリナもホーリィもドン引きした。
が……。
「うわぁー! すごく臭い! やっぱり熟成肉はこれくらいの臭いを発していないとイケませんね!」
この危機的状況下にあって、ローリエだけが何故かウキウキした表情でステーキ(?)を眺めていた。す、凄い生命力だ……さすがはエロフ!
「召し上がれオラァ!!! お客様ァ!!!!!!」
マッツォが何故か筋肉をアピールしながらやたら澄んだ目で見詰めてくる! 頭皮もキラキラしている!! あと、いい大胸筋だ!!!
「召し上がれったって、ねぇ、グレン!」
エリナが肘でツンツンしてきた。
「お、俺は嫌だぞ!?」
「うぷっ……すみません、私、酸っぱいものが込み上げてきました!」
「おい、ホーリィ! 吐くなら店の外でやってくれよ! しんどそうだな? よし、俺も介抱するために一緒に出よう!」
「あっ、ちょっと、グレン! 意気地なし!」
席を立とうとした俺とホーリィの前に、マッツォが鬼の形相で仁王立ちした。
「お客様ッッ!!! 肉の代金は置いて行って頂きましょうかァオォン!!!」
「食べ物を粗末にするなんて命への冒涜だよ!!!!! 有り金全部置いていきなっ!!!!」
カウンターの向こうからアンの怒鳴り声。
ったく、そういう店かよ。ただのボッタクリ店じゃねぇか。
「こんなもんに払う金は持ってないよ。アンタらも客商売ならもっとまともな肉を出しなよ」
「風評被害!! ウチの肉は最高級だよッ!! マッツォ、お客様を黙らせなっ!!!!! あんちくしょう!!!!!」
「オラァ!!筋肉魔法ォ!!シャイニングウィ……にゃーん♪」
魔チュールを咥えさせるとマッツォは途端におとなしくなった。
「マッツォ!!? きいえぇぇぇい!!! クソ申し訳ありませんでしたぁ!!!!!!!!」
アンが猛烈なスライディングから美しい土下座を決める!!
「はぁ……。別の店、行こうか」
「そうね」
「おぷっ! み、皆さん……」
口を押えながら、ホーリィが指差した先……。
「うぅーん、腐りかけのお肉おいしい! クッチャクッチャ……」
ローリエが、謎の糸を引いている半生肉を頬張っている姿があった。
ヤベェ……。