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第6話 人間とエルフの確執

「つ、疲れた……」


 ゼンノ市長候補の事務所を出た時、辺りは既に薄暗くなっていた。街灯にぽつり、ぽつりと火を灯して歩く魔導師が俺達の前を横切っていった。


 何故にこんなに疲労困憊なのだ、俺は。


「いやー楽しかったですね!」


 ローリエよ……お前は楽しかったろうよ。俺はひたすら疲れたよ。


 だが苦労した甲斐あって色々と見えてきた事がある。この町の住人達のエルフに対する憎しみの原因とか。

 始めは冗談だと思ったが、エロフの話はこの件と密接に関わっていたのだ。


 かつて、この地がどこの国の領土でも無かった頃。一帯にはエルフと人間の他、いくつもの種族が混在して生活していた。

 そのうち、エルフが力を付け始め、他の種族を取り仕切るようになる。

 三つの種族のうちエルフとダークエルフは他の種族に対する過度な干渉は行わなかったが、エロフだけは別だった。自分達の欲を満たす為、次々と、主として人間を狩っていった。


 時代が進みヤンク王国がこの地まで武力侵攻をしてきた頃、人間はすっかりエロフの奴隷に堕ち、彼女らによって“飼育”されているような状態になっていた。

 ヤンク王国正規軍がエロフを駆逐し軍事拠点を築き、アルフヘイムとの国境線を制定して以降も、人々はエロフが自分達に対して行ってきた仕打ちを恨み続けていた。


 長年に渡る憎悪は徐々に、エルフという種族全体へと拡大され、アルフヘイムの為政者が変わり渉外(しょうがい)政策が異人種との融和という方向へ変わった後も、かつての遺恨のみが残り続け、語り継がれ、エルフ憎しの風潮が深く根付いたのだった。


「だが俺にとっては単に迷惑な話、か」


「んん? どうしたんです? 深刻そうな顔をして」


「いや、どうやったら人間とエルフが和解できるのかなと」


「和解ですか。難しいですよね。私にはいい方法は思い付きません!」


「俺もこんな厄介な問題、考えたくないが……今の戦争へ向かう機運の高まりを無視してアルフヘイム入りは出来ないな」


 ゼンノさんは戦争反対派だ。彼が当選しさえすれば、戦争は一応回避できる。が、彼の支持者は少ない。軍部も、戦争に積極的なようだ。


「選挙、ねぇ……」


「一週間後でしたっけ?」


「あぁ」


「じゃあまだ時間あるじゃないですか。今日はもう遅いですし、明日から考えることにしましょう」


 これはローリエの発言に一理あるか。今日はこの町の現状を確認出来たしゼンノさんに面通しも叶った。首尾は悪くない。


「お腹、減りません?」


「減った」


「肉でしょ?」


「すっかり忘れてたよ。そうだったな、肉だ!」

 

「みんなと合流して、食べに行きましょう、肉!」


 ローリエが俺の手を取り、引っ張る。能天気だが、この明るさは確かにローリエの魅力だなと思う。


 深刻になり過ぎず、俺もどーんと構えていくとするか。

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