第4話 ゼンノ市長候補の湿っぽい過去
「恐ろしい偶然もあるものだなぁ」
しみじみとゼンノ市長候補は言った。
「ええ、本当に」
事情を知った俺は頷く。この偶然に運命めいた何かを感じずにはいられなかった。
ウリエルとはローリエの母親の名前だった。そしていつかローリエが語っていた“母と結婚した人間の兵士”というのがこのゼンノだったのである。
「いやぁ驚いた。本当に母親と瓜二つだよ、君は。私はてっきり、ウリエルが戻ってきてくれたものかと」
禿頭を掻いて、ゼンノは朗らかに笑う。
「ええ、私もまさか母がハゲと結婚したとは……」
「クッ……私の髪もかつてはフサフサだったのだ。それが度重なるストレスのせいで今ではもう……」
普通に辛辣なこと言うローリエに思わず吹き出しそうになる俺。でもゼンノさんは特に怒りもせず遠くを見詰めていた。
「ウリエル……」
「あの、もしかしてウリエルさんは」
俺はおずおずと尋ねてみる。湿っぽい話になるか!? ストレス展開来るか!?
「他の男と寝て、どこかへ去っていきました……」
「やっぱりかよっ!」
酷ぇビッチじゃねぇか!!
「良かった……母は救われたんですね……」
「ええ、私と違ってフサフサな男と駆け落ちしましたから……」
「良かった、ハッピーエンド」
「私もハッピー」
わからない……。俺にはこの会話がわからない……。ゼンノさん、ローリエとこんなに話が合うということはあなたも狂人なんですね?
「ええっと、それで何の話でしたっけ?」
「ゼンノさん、ようやくそこを聞いてくれましたね。真面目な話をしに来たんですが、いいですか?」
「はぁ、構いませんが生憎事務所はこのような有様で、お客様を迎え入れるような状態にはありませんが」
「気にしません。アクラッツの支持者達にやられたんでしょう?」
「はい。エルフを庇う奴なんかライネ市民じゃないと言われまして」
「どうしてそんなに、彼らはエルフを憎悪しているんです?」
ここは是非とも確認しておきたい。ライネ市民のエルフに対する悪感情は異常だ。何が彼らを駆り立てている? 根本の原因さえ判明すれば打つべき手立ても見えてくるかもしれない。
「暗く、“ハゲ”しい話になりますよ……」
「もしかしてゼンノさん、ご自身のハゲをネタにしてませんか?」
「はい。生来の地味キャラである私にはこれくらいしか取り柄がありませんので」
悲しすぎる! あとでこっそり、髪が生えてくる薬を進呈しておこう。