第3話 市長候補と対面
「コ・ロ・セッ!」
「コ・ロ・セッ!」
人々が沿道を大合唱しながら通り過ぎてゆく。彼らが掲げる旗には“エルフの森を焼こう”の文字。何たる光景だ。
「あーん、フードと耳が擦れてかゆいですぅ」
闇の魔導師みたいな漆黒のフード付きローブで全身を覆い隠したローリエが体をクネクネさせている。どことなく嬉しそうなのは何でだ?
「我慢しろ。あと、静かにしろ」
「はーい!」
緊張感無いな……コイツは。
「慎重に、出来るだけ人目につきにくい路地を通って目的地へ向かうぞ」
俺は言う。
エリナとホーリィに今宵の宿の確保を任せ、俺はローリエを伴ってアクラッツと市長選で争う対立候補の元を目指していた。
彼の選挙事務所はそんなに遠くないのだが、町中至る所でアクラッツ派の住人達が練り歩いていて困る。
「それにしても凄い人気……アクラッツ市長候補、でしたっけ」
「あぁ、そうだな。どこを見渡しても“エルフの森を焼こう”だもんな」
この町の住人達のエルフという種族に対する悪感情は根深そうだ。何故それ程、エルフを忌み嫌う?
「調べてみなくちゃな」
どうやら選挙戦は一週間後らしい。
俺達が今いるのはアイオミ区というライネの商業の中心地。人口が5つの区の中で最も多い場所。ここでの開票結果が、市長選の当落に最大の影響を与えるようだ。
裏路地をこそこそとネズミみたいに駆け抜け、俺とローリエはようやくアクラックの対立候補、ゼンノ市長候補の選挙事務所へと辿り着いた。
が……。
「おいおい、こりゃあ……」
レンガ造りの建物の前にゴミが散乱し、ノボリがズタズタにされ、壁面の一部が煤けている。まるで略奪でもあったかのような有様だ。
「すいませーん、どなたかいらっしゃいますかー?」
意を決し、事務所に入ってみる。中も惨状。椅子も机もひっくり返っている。
「すいませーん、どなたか」
「あっ、はいはい」
奥からひょっこりと小柄な禿頭の初老男性が顔を覗かせた。ハゲ頭という以外これといって特徴もない、いかにも善良な市民といった風情の男。
「ここ……ゼンノ市長候補の選挙事務所ですよね?」
「ええ、そうですよ」
「ゼンノさんは……」
「あっ、それ、私です」
「あなたが」
「ええ、そうですよ。ゼンノと申します」
うーん、地味。存在感が薄い。あのアクラッツ市長候補の熱のこもった演説を見た後では、とても頼りない印象を抱いてしまう。
「あっ!」
突如、ゼンノ市長候補は目を見開いてローリエを指差した。何っ!? エルフだと気付かれたか!?
「おぉ……君はもしや……」
やはり勘付いたのか。
「ウリエル! ウリエルじゃあないか!?」
……誰?
「ん、どうしたローリエ?」
ウリエルという名前を聞いて、ローリエはとても驚いたようだった。知り合いか。否、そうではなかった。彼女は言った。
「どうして……私の母の名前を!?」