第2話 エルフの森を焼きたいかー!?
「エルフの森を焼きたいかー!?」
「「「「「うおおおおおーーーっ!!!」」」」」
「エルフの森を焼くことはこの町の、いえ、この国の未来のために必要不可欠! 争いのない平和な社会の実現! 福祉の向上! 資源の獲得! 全ての子供達が安心して暮らせる世界!」
「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおーーーーーっっっ!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
広場は熱狂に包まれていた。特設ステージの上に立ち、よく通る声を張り上げて叫んでいるやや脂ぎった男がきっと、アクラッツ市長候補だろう。彼の一挙手一投足に民衆が大歓声で応えていた。
「凄い人気………」
エリナの呟きは人々の放つ騒音に吸い込まれて消えてゆく。
「本気で、アルフヘイムへ侵攻するつもりなのか」
しかも陣頭指揮を執るのがあのイーノだと?
俺を追放した張本人であるムノー宰相の一人息子。ロクに能力もないのにプライドだけはとにかく高い奴だ。正規軍の総督に就任していたのか。ひどい閥族政治だなぁ。
「きゃっ」
俺の傍で、短く甲高い悲鳴。ローリエだ。
「ぐへへ、姉ちゃんエルフだろ? だったらちょっと触らせてくれよ」
「むほほっ、いい胸してんじゃねぇかよぉ」
下品な男達に体を触られていた。どさくさに紛れて何てことを。ローリエが表情を苦悶に歪めて……歪めて?
「っやん……やめ……いえ、もっと露骨に揉んでください。せっかくなのであっちの人目につかない場所まで行きましょう。さぁ、さぁ!」
……楽しんでやがる!?
「おい、何やってんだよ!」
放置するとロクなことにならないので俺はローリエの手を強く引いて、人の群れから抜けることにした。この色狂いエルフめ!
「あぁん、グレン様! もう少し、もう少しだけあの場にいさせて欲しかったですぅ!」
「うるさいうるさい! もーめんどくせぇ!」
「グレン、後ろ!」
エリナの緊張感をはらんだ声。
「エルフだ!」
「エルフの女だ!」
「やっちまえー!」
一部の暴徒と化した男達が、血走った目をしながら襲い掛かってくる。エルフに対し暴力を振るうことに、何の躊躇いも無いのか!?
「チッ! そんなにエルフが嫌いかよ!」
左足で石畳を強く踏む。体内で練り上げた魔力を地面に伝え、魔素分解を行う。一瞬にして粉々に砕け散った破片が高く舞い、男達の行く手と視界を塞ぐ。
「曲がるぞ!」
細く入り組んだ路地をめちゃくちゃに進み、何とか暴徒をやり過ごすことに成功した。
が、それにしても……。
「アクラッツを市長にさせるのは、マズい」
あれだけ反エルフ感情の高い人々を抱え込む市長候補……当選したら間違いなく戦争が始まるだろう。エルフは争いを好まない。けれどエルフとて黙って侵略されはしない。血で血を洗う悲惨な戦争になることは目に見えている。
「どうしますか? グレン」
ホーリィは壁を背にして魔杖を握り、臨戦態勢を取っている。
「とりあえずローリエのその特徴的な耳を隠す帽子か服がいる。あとは情報だ。アクラッツの対立候補についての情報が欲しい」
ったく、すんなりとアルフヘイム入りは出来ないってことかよ。
これからエルフの国でのんびり暮らそうとしている時に、戦争はダメだ。何としても阻止しなければ。




