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第17話 旅立ちの日

 マガマガ・ダンジョンでの大立ち回りから数日。

 俺達はバンカラの湾港にある獣人族が運営するワイバーン飼育場を訪れていた。


「本当にもう、行っちゃうんですね?」


 見送りにきてくれたホーリィが名残惜しそうな顔をする。


「あぁ」


 俺の背後で獣人族達がワイバーンに荷物を括り付けている。

 俺達はこれからあの飛竜に乗って一気にエルフの国の近くまで飛ぶ。国境をいきなり超えるのはエルフ側に余計な警戒心を抱かれてしまうので避けるとして、まずは国境を接する町、ライネを目指すこととする。


「あなたには本当にお世話になりました。改めてお礼を言わせてください。ありがとうございます」


 深く頭を下げるホーリィ。


「礼なんかいらないわよ、ホーリィさん。どうせグレン、レア素材が欲しかっただけでしょ!?」


 横から俺を肘で小突いてくるエリナ。


「おい、酷いことを言うなよ。お前は知らないだろうけど、俺だって今回結構命張ったよ? ねぇ、ホーリィ」


「はい。私が今生きているのもグレンさんのお陰です」


「ほらね」


 ドヤ顔。そして歯噛みするエリナを見下ろす。


「わー、凄ーい! キャハハッ!」


 ローリエは一足先にワイバーンの背中に(またが)り大騒ぎしている。飛竜乗りである獣人の少年の後ろに乗せてもらい、低空に浮遊したワイバーンの乗り心地を楽しんでいるようだ。


「ローリエ、ちゃんと体をロープで固定したか? 振り落とされるぞ」


「へーきへーき! 私バランス感覚に優れてますからって……ああっ!」


 言ってるそばから転落しやがった。地面にゴロゴロ転がった後で頭を押さえて立ち上がるエルフの少女。ったく、いつもこんな調子だ、こいつは。


 ホーリィが、くすりと笑った。


「グレンさんのパーティはいつも楽しそうですね」


「そう見える? まぁみんな、楽天的ではあるかな」


「私を一緒にしないでくれる?」


 エリナが言う。口をムスッとさせながら。


「ワイバーンに乗るのは初めてなんだけど、速いの? これ」


 手近な飛竜の首を撫で、エリナが訊いてくる。獣人族によってよく手懐けられているとはいえ、ドラゴンに対し物怖じせず触れられる度胸はエリナのいいところだ。


「あぁ、速いよ。単に飛行するだけなら俺も魔法で何とかなるけど、移動速度はワイバーンの方が圧倒的に速い」


「へぇ、そうなんだ」


「エルフの国には飛竜乗りがたくさんいるからさ、向こうに着いたらエリナも教えてもらえば? 乗馬が得意なら飛竜もうまく乗りこなせるかもな」


「ふぅーん、それもいいわね」


 エリナは俺より乗馬が上手かった。子供の頃、よく彼女に教えを請うたものだ。


「あの、もしお邪魔で無かったら私も一緒に……」


 両手を胸の前で組み合わせ、少し緊張気味にホーリィは言う。だが最後まで言い終わらないうちに首を振って、自らの言葉を否定した。


「いえ、こんな実力では何の役にも立ちませんよね。足手まといになるだけですね」


 そうか。ホーリィはこの町で、一人ぼっちになってしまったのか。ウォードとノリスは死に、“ウォーナイツ”は彼女だけとなってしまった。


 エリナに目配せする。彼女は静かに頷き、肯定の意思を示してくれた。


「そんなことはないよ、ホーリィ」


「……え?」


「君さえ良ければ一緒に来てくれ」


「で、でも私……魔法もロクに使えませんし、あの……」


「いや、俺は君に教えてほしいことがある」


「私に?」


 空中に、俺の指先がゆらめいた。


「キレイな字の書き方を、ね」


 そう言った途端、ホーリィは表情を崩し、起きているのか寝ているのか判別しづらい目を更に細めて、満面の笑みを見せてくれた。


「……もうっ。わかりました。私が必ず、あなたの字をもっともっと上達させてみせます。誰が読んでもあなたの術式が分かるように」


「じゃあ、今後ともよろしく頼むよ」


「こちらこそ」


 俺が差し出した手を、背筋を伸ばしてホーリィは握り返した。


「字は私の方が上手いですけど……口の上手さでは完敗です」


 ホーリィはにっこりとして、俺を見上げた。

 こうして、俺のパーティに新しいメンバーが加わることになったのだった。


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