第15話 一攫千金の後で
「ヒエッ!?」
質屋のオヤジが椅子から転げ落ちた。
「さぁ、お値段聞かせていただきましょうか!」
俺は魔晶石をオヤジの眼前に差し出して詰め寄る。
「ウ、ウチではこれ程のものは買い取り不可能だよぉ……」
「言い値で」
「言い値!? だったら……金貨200枚! すまんが手元にはこれくらいしか金がない」
「ほー、相当買い叩くねぇ、おまけに何かつけてくれない?」
「何かって、何だい!?」
「現金はもう無いとして……情報だな。俺は趣味で薬法師をやってるんだけど、あいにく薬を切らしてしまってね。薬法師用の素材を潤沢に取り揃えているお店があったら紹介して欲しいんだが」
「わかった、教えてやるよ」
「だったら、これはアンタのものだよ」
俺は魔晶石を震えているオヤジに押し付けると、金と情報を受け取り店を後にした。
ここまでは順調だ。いくつかの質屋や羽振りの良さそうな道具屋を回り、手元には既に金貨が2000枚。
店の前の路地には手押し車を持ったオーク達が待機していた。これは金で雇った運搬係。金貨を何千枚も持ち歩くのはさすがに厳しい。
「旦那、一体これ程大量の魔晶石をどこで手に入れたんで?」
オークが訊いてくる。
手押し車2台に分けて麻袋に入れられ満載された赤色の魔晶石。これ全部、アラクネの目玉だ。
「マガマガ・ダンジョンだけど」
「あの、超危険なダンジョン!?」
「死ぬ気で潜って獲得しました」
「凄ぇや……俺達ならあんなとこ、入ってすぐに殺されちまいますよ。やっぱり冒険者様は違うな!」
「そんなに誉めるなよ、照れる。この後もまだまだ質屋を巡るぞ! 報酬は弾むからしっかり警備を頼むぜ!」
「はい、喜んでー!」
「「「「喜んでー!!!」」」」
オーク達は拳を突き上げて唱和した。
前金は羽振りよく渡しておいたからね、オーク達もご機嫌の様子だ。
さて、ここで一度状況を整理しておくか。
昨晩、ウォードとノリスの策略にハマり泥酔させられてしまった俺であったが、ズボンのポケットに忍ばせていた強力な酔い覚まし薬“マンドラジンの力”を服用し体内からアルコールを排出、すぐにシラフに戻った。
これに加え消耗した体力を即座に回復させる為、一旦宿へ戻りエリナとローリエに事情を説明しオーク達との取り引きを任せ、“ブラック・ワークアウトX”を自分用に改良した“ブラック・ワークアウトG”を使って肉体と魔力を大幅強化してからマガマガ・ダンジョンへ向かった。
そしてホーリィを救い、成体のアラクネを含む全てのアラクネを倒し、魔晶石を魔法で一まとめに浮かせてダンジョンから運び出し、エリナに先導されてやってきたオーク達と合流、彼らに手伝ってもらい魔晶石を町まで運搬したのだった。
バンカラの質屋を片っ端から散財させる勢いで売りまくるぞー。
そして金をたんまり稼いでから、次の町へ向かうとしよう。
っとその前に何か薬を作っておきたいしアラクネの糸で新しい服も作らなくちゃな。あー忙しい!