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第14話 グレン・レオンハートの真の実力

 魔素分解。

 それは薬法師の基本にして終生の課題だ。


 イメージとしては、とある物質に魔力を流しドロドロに溶かす、あるいはバラバラに分解する。この分解が細かければ細かいほどいい。そして分解した物質の成分を調査し、魔力を用いて他の物質と調合したりして再構築する。


 薬法師の中でも魔法に長けていない者はもっと素朴な調合方法を用いるが、俺は違う。どちらかと言えば薬法よりも魔法の方が得意分野だ。薬法は魔法の副産物として扱っているに過ぎない。あと、趣味。


 という訳で実戦だ。敵は数十体くらいいる鋼糸(ケブラ・)蜘蛛(アラクネ)。倒すのは造作もないが目玉と腹に蓄えられているであろう糸、及び糸の生成器官は綺麗な状態で置いておきたい。


 だったら使うのは土と風と、光かな。


 俺は右足を強く踏み鳴らし大地へ魔力を流し込む。岩盤を分解し(つぶて)に変えて迫り来る蜘蛛に高速でぶつける。これは牽制。アラクネの動きを封じる。


 両手で魔力を練り、一気に解放。風属性の魔法。全てのアラクネに対し突風を叩きつける。するとどうだ。奴らの習性上、必ず脚を踏ん張って、その場に留まろうとする。


「さて、決めるか!」


 頭上。無数の光魔法の煌めき。先ほど蜘蛛糸に対して魔素分解をかけて光属性へと変換しておいた。これは布石だ。出来るだけ傷を付けずにアラクネを倒す為の。


輝煌矢(ライトニング・アロー)!」


 指でパチンを音を鳴らし、(つが)えた矢を放つかのように魔力を解放する。光は形を変え、一直線にアラクネ達へ向かって降り注いだ。さながら光の雨だ。


 ほぼ同時に、全個体の頭部を真上から光の矢が刺し貫いた。目玉を傷つけず、腹に格納されている糸とその器官を避け、脳をピンポイントで焼く。


 アラクネ達は自身に何が起こったのか理解する間もなく、痙攣しながら次々と動かなくなっていった。


「凄い……」


 ホーリィの囁き。そういうセリフは聞き逃しませんよ、俺は! 素早く振り返ってサムズアップ。


「隠してましたが、これが俺の実力です」


 そしてアピール。


「ふふっ……もう、変な人。余計なこと言わない方が恰好良かったのに」


 笑われてしまった。


「っと、また失言か。俺はついつい調子に乗るところがあるからな」


 周囲の安全を確保し、俺は糸に絡まっているホーリィに近づく。掌を糸に触れさせ、分解。


「さぁ、これでもう大丈夫」


「ありがとうございます。って……あれっ? 服が?」


 ついでにサービスで、アラクネに引き裂かれた服の修繕と乾燥もしておく。こういうさりげない気遣いが俺の魅力である。


「服? 何の事かな」


 いやぁだって、あのままじゃちょっと刺激が強いからね。ホーリィ、立派なものを持っているから。


「……もう、あなたって本当に……」


 ホーリィは目を伏せ、そっとその体を俺に預けてきた。背中を片手で抱き、俺はしばし無言になる。震えているようだ。安堵したら恐怖が蘇ってきたのかもしれないな。


「ごめんなさい。私……」


「君は積極的にあいつらに協力してたわけじゃないだろ? 分かってるって」


「ありがとう、ございます」


 か細い声。俺の背中に両手を回し、強く抱き付いてくるホーリィ。ということは必然的にアレがアレしてアレすることになるわけだが、これは率直に言って至高である。至高至高だ。


 が、


「まだ安心するのは早そうだな」


「……え?」


 名残惜しいがホーリィの体を離し、俺は前方を睨む。轟々と流れる地下水脈が隆起した次の瞬間、ザバァと水飛沫を上げてそいつは姿を現した。


「やはり、いたか」


 ここまでは想定の範囲内。

 あれだけ大量のアラクネがいたんだから、“親”に相当する個体がいるに違いないと思っていた。

 読み通り、遂に……俺はアラクネの成体と遭遇したわけだ。


 あまりにも、そいつは巨大だった。

 俺が倒したどの個体も人間の大人くらいのサイズだったがこいつは、その数十倍はある。下手すりゃ轟震巨獣(ベヒーモス)くらいあるんじゃないか。


 成体の鋼糸(ケブラ・)蜘蛛(アラクネ)は威容を震わせ体にまとわりついた水を弾き飛ばして、ゆっくりと近づいてきた。ここまでデカいと幼体みたいな素早い動きは出来ないだろう。あと、巨大すぎてこのダンジョン内から外へ出ることも叶わないに違いない。


「どういう生態をしているんだろう……うう……じっくり調べたい……」


 複眼が、魔晶石がとにかくデカい。両手で収まりきらないほどのサイズだ。これ……一体いくらで売れるんだ? ゴクリ。


「グレンさん、大丈夫ですか?」


 感動に打ち震える俺の姿を見て、ホーリィが心配そうに声をかけてきた。

 いや、恐怖で足が竦んでるわけじゃないんだよ。あまりに素敵な出会いに歓喜しているだけで。


「あぁ、大丈夫。でも俺……下手したら国家予算並みの大金を手に入れちゃうかも」


 って、買い取り手がいねぇか。値段もつけられないだろうな、こんなもの。


「グレンさん、アラクネが!」


「分かってるよ。心配ご無用!」


 地を這う虫を見下ろすかの如く、アラクネ成体は立ち止まり真っ赤な瞳を俺に向けた。


「先に宣言しておこう。この戦いは一瞬で決着し、次話ではもう場面転換しているだろうと!」


 巨大な質量を持つ脚が俺目掛けて、振り下された!


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