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第12話 ウォーナイツ、死す! 前編

「チョロいもんだぜ」

「あぁ、僕らの計画通りだね」


 冒険者パーティ“ウォーナイツ”のウォードとノリスは日が暮れてからもう一度、マガマガ・ダンジョンへと潜行していた。


 夜のダンジョンは昼間よりも遥かに危険だ。夜行性の魔物が多く出没することに加え、夜間にダンジョンへトライするパーティが少ないため必然的に自分たちだけで戦っていかなくてはならない。ピンチになっても周りには誰もおらず、助けを求めることは不可能。


 だが、彼らは恐れの感情など微塵も感じていなかった。

 グレンから奪った麻袋には、多種多様な薬が入れられていた。これがあれば、自分達の限界以上の力を簡単に引き出すことが出来る。


「果たしてダンジョン下層に何匹の鋼糸(ケブラ・)蜘蛛(アラクネ)が棲息しているのか……実に楽しみだよ」


「片っ端からぶっ殺して、目玉を全て獲得してやる」


「あぁ、そうして僕らは大金持ち、だ。冒険者を引退したとしても一生贅沢して暮らせるだろう」


「あの薬法師のガキには感謝しねぇとな」


「僕らの為に、わざわざこんな素敵な贈り物をくれたのだからね」


 ウォードが手にした麻袋を掲げた。


 この計画は即興(アドリブ)だった。

 グレンと一緒にダンジョンへ潜りその薬の効果の程を実感したウォードとノリスは、隙を見てグレンのバッグを奪い薬を頂くプランを立てた。

 ノリスがわざと鋼糸(ケブラ・)蜘蛛(アラクネ)の目玉に傷を付け、ギルドで報酬に文句をつけてヤケ酒にグレンを付き合わせたのも当然演技である。酔わせ、意識を失わせ、持ち物を奪う。パーティメンバーだと言ったら店員は何の疑問も抱かなかった。だから彼らは堂々とグレンのバッグを外に持ち出すことが出来たのだ。

 

「こんな事、絶対に止めたほうがいいです!」


 ウォードによって背中に短剣を突き付けられ、先頭を歩かされているホーリィが言った。彼女は光魔法によって洞窟の前方を照らしながら進んでいる。


「今更もう遅い、よ。君だってこうして僕らに協力してくれているじゃないか」


 酷薄な声で、ウォードが言う。


「私は違います。あなた達に無理やり……」


「だが、彼からすれば君も裏切り者に見えるだろう。だって僕らのパーティメンバーだったんだから」


「そんな……」


「過ぎたことはもう忘れよう、ホーリィ。僕らはこれから大金を手にするんだ。そして、自由気ままな暮らしをする。君だって、わざわざ命の危険を冒してまでダンジョンに潜ったりしたくないだろう?」


 ウォードは左手で短剣をホーリィの背中に軽く押し付けながら、右手で彼女の腰を撫でた。


「ひっ!?」


「そう嫌がらなくてもいいじゃないか。ここには僕ら3人だけ。他には誰もいない。何が起きたって、助けは来ないんだよ。逆らわない方が賢明だと思うね」


 光魔法が照らすウォードの顔に、陰がかかる。嗜虐的な笑みが、その端正な相貌に浮かぶ。


「私を……どうするつもりですか?」


「仲良くしよう、ということだよ。ねぇ、ノリス」


「あぁ、そういうこった。ホーリィ、お前はパーティメンバーとしてはそんなに役には立たなかったが見た目だけは最高だ。いいか、ほんのちょっと、これから嫌な思いをするかもしれねぇが、外に出たらきれいさっぱり忘れちまえ。金は恵んでやる。それで好きに生きろ」


 勘の鈍いホーリィでも、彼らの言わんとすることの意味は理解できた。下卑た笑みの裏側にある情欲があまりにもはっきりと見て取れる。


「……やめて、ください」


 喉が、震えた。


「立ち止まらず進みたまえ、ホーリィ。僕らが目指しているのはこの先……鋼糸(ケブラ・)蜘蛛(アラクネ)の“巣”だよ。たくさんいるんだ。昼間にこの目で確認したからね」


「帰らせてください。私は……パーティから抜けます」


「さっきも言ったろ。もう遅いんだよ。僕らの計画を聞いてしまったら、君を逃がすわけにはいかない。黙って僕らの言うとおりにすれば命は助けてあげるよ。ついでに幾許(いくばく)かの金も手に入る。いいじゃないか、君も僕らと一緒に楽しもうよ」


 一瞬、短剣が背から離れた。ホーリィは覚悟を決めた。指先に点らせていた光を消し、


「嫌です!」


 洞窟の奥へ向かって駆け出した。たどたどしい足取り。思うように走れない。だが、逃げる。暗闇の中、両目に魔力を集中させ辛うじて視界を確保する。


「グレンさん」


 口を衝いたのはその名前。燃えるような赤髪と、飄々とした笑顔。


(あぁ……会いたい……)


 何故そんな事を思うのか。わからないままホーリィは走った。闇の中を、地上ではなくより深く、より危険度の高い場所へと。 


「待ちやがれ!」


 ホーリィを追って駆け出そうとする相棒の胸を手で制し、ウォードは首を振った。


「そう焦らなくてもいい。どうせこの先は行き止まりさ。薬は僕らの手の中にある。ホーリィには、成す術はない」


「フン、そうだな。そしてあの薬法師も酒で潰れてしばらくは動けない」


「僕らの勝利は揺るがないということだよ、相棒。ならばここはじっくりと、“狩り”を楽しもうじゃないか」


 この先にあるのはアラクネの巣だ。ホーリィ一人の力では突破できない。どうせ、自分達に従うしかない。ウォードは愉悦に嗤い、剣を抜き放った。


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