第2話 幼馴染のエリナ
「と、いうわけなんだよエリナ」
「数年ぶりに突然訪ねてきたと思ったら……アンタ城の仕事をクビになっちゃったの!? また何かとんでもないことやらかしたんでしょー?」
「薬法師として粛々と研究開発に明け暮れていただけですけど!」
「髪の毛が増える薬?」
「それはお前、大昔の話だろうよ」
そういや昔はイタズラでそんな薬も作ってたっけ。今では髪の毛どころか欠損した腕や足だって生やせる薬がある。
城下町の西の果て、貧民街に存在する安宿の女店主エリナは突然の俺の来訪にも気持ちよく対応してくれた。俺の幼馴染であり、戦争孤児だった俺たちは苦しい幼年期を一緒に乗り越えてきたいわば、戦友でもあった。
生まれながらに薬法師としてのセンスにだけは恵まれていた俺だが、子供の頃は妙な実験を色々として周囲によく迷惑もかけたものだ。円形脱毛に悩んでいた傭兵に髪の毛が増える薬を作って渡してあげたこともあった。効きすぎて全身の毛が異常な速度で生えてくるデメリットを除けば、おおむね成功だったといえる。
「この宿は相変わらず、閑古鳥が鳴いてるな」
「暇すぎて私が石化しそう」
「ちょうどよかった」
「よくないわよ」
「エリナさ、お前、この店を畳んじまえよ」
「はっ?」
「どうせ儲からないんだし、俺と一緒に来いよ」
「えっ? それってどういう……」
「二人で一緒に、一から始めようぜ。新しい生活」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って!!!」
突然ガタンを椅子を倒して立ち上がったエリナは両手で顔を覆いながら壁際に走っていった。むむ?
「突然訪ねてきたと思ったらアンタ、いきなり何を言い出すのよっ!?」
え、俺何か変なこと言ったっけ?
一緒に新しい生活を始めようって言おうとしただけなんだけど?
自由気ままな楽しい行商ライフ!
エリナなら幼馴染だし気心知れてるわけで、パーティメンバーとしては最適かな~なんてね。
「ごめん、アンタの気持ちは嬉しいんだけど……か、考える時間をくれる?」
「お、おう、いいけど。じゃあ俺、ちょっとその辺をフラフラしてくるから。荷物預かっといてくれる?」
「う、うん。いって、らっしゃい……」
覆った指の隙間から紅潮した顔を覗かせ、エリナが言った。
さて、旅に出るとなれば金の工面をしておかなくては。幸いにして俺の手元には貴重な素材がいくつかある。売ればまとまった金になるだろう。俺はさっそく、町の質屋へ向かうことにした。