第6話 特製ドリンクと膂力の暴風
光源が何もないダンジョンでは、松明か光魔法のような明かりを確保する為の方法が必須だ。だがどういう方法を取るにしても、ダンジョン内に存在するモンスターにとってはそれが格好の目印となる。出来るだけ体力を温存しつつダンジョン深く潜るには、可能な限りこちらの存在をモンスターに察知されない立ち回りがしたいところだ。
そこで、俺の出番である。
薬法師グレン・レオンハート特製の視力増強剤“ベリーベリー・アイ”の登場だ。
このドリンク剤は飲むだけで視力を超絶強化して、通常の10分の1以下の光量でも昼間と変わらないほどはっきりと物を見ることが出来るようになる優れもの。夜戦を仕掛ける兵士達を補助する目的で開発していたのだが、お役御免になって追放される際に何本か持ち出してきたのだ。早速、役に立ったな。
現在、ダンジョン地下20階層。
マガマガ・ダンジョンは最下層がまだ発見されていないので一体どれほど深いのか未知数だ。そして地下深くにどんなモンスターが棲息しているのかも不明。知的探求心をそそる、バンカラ屈指の高難易度ダンジョンである。
洞窟の奥、暗がりから続々と湧き出してくる毛むくじゃらで二足歩行の魔獣。トロールか。こういったダンジョンではしばしば目にする、ありふれたモンスター。数はざっと……30体くらいか。
「やはり……マガマガ・ダンジョンは一筋縄では行かないね」
先ほど切り伏せた大砂蠍の猛毒の体液を剣を振るって払い、ウォードは再度構え直した。俺の想定以上に場慣れしている。単純に、強い。この大剣もかなりの業物だろう。切れ味、耐久性、魔法その他の毒物への耐性も高い。特殊な加工が施されているのだろう。うぅ……触りたい。調べてみたい。
「トロールの群れか。丁度いい、次は俺にやらせろよ」
ノリスが斧を頭上に高く掲げ、前に出た。
「ふん、君にはお誂え向きの相手かな。譲るよ」
ウォードは剣を構えたまま下がり、俺とホーリィにも後退するよう、手でジェスチャーをした。
マガマガ・ダンジョンの天井は高い。広さも相当なものだ。ノリスが斧を振り回しても壁が崩れたりはしなさそう。そこは一安心か。
トロールは素手の奴もいれば棍棒を持っている奴もいる。中には安物の剣を持っている個体も。この剣は多分、ダンジョンのどこかで力尽きた冒険者から奪ったものだろう。知能の低いトロールが得物をうまく使いこなせるとは到底思えないが。
「来な……この俺の肩慣らしに付き合ってくれよ」
その言葉に呼応するかのようにトロール達が駆け出した。一目散にノリスのもとへ。
「フンッ!」
ドゴオッ!!!
ノリスが裂帛の気合いと共にトロールの群れへと振り下ろした大斧の一撃は、地響きのような轟音を響かせて低級魔獣を吹き飛ばし、肉片へと変えた。
濛々と土煙が上がる中、初撃のインパクトに恐れをなして動きを止めた後続のトロール達へ、無慈悲な横薙ぎが繰り出される。
巨大な質量のもたらす暴風雨が、洞窟壁面に鮮血と肉塊のアートを描いてゆく。
うーん、バイオレンス!




