第5話 草を食む
「これより、ダンジョンへの潜行を開始する。各自油断せず、全方位に気を配り、決して隊列から外れないように……って君、ねぇ?」
マガマガ・ダンジョン入口のぽっかりと開いた大穴の前、ウォードの言葉を全然真面目に聞かず道端の草を毟って舌の上で転がしているホーリィ。起きているのか寝ているのかよくわからない半眼で舌をレロレロさせながら雑草を味わっている様にどうしようもなく郷愁を覚える俺。あー、わかる。薬法師ならみんなやるやつだ!
「あっ、すいません、つい癖で……この雑草、美味しいのかな、美味しそうだなって……」
……ただ食ってただけかよ!? 俺はてっきり舌の上で魔素分解して成分を分析しようとしているのかと。
「ホーリィ、君のマイペースなところは利点だよ。パーティのムードメイカーとしてね。けれど今はSランクの依頼に挑もうとしている大事な場面なんだ、わかるよね」
「むしゃむしゃ……ふぁい、わかります」
!!! 草を食みながら喋ってる!
「どうにも緊張感が無いね……まぁいいか。そこの君、グレン」
「はい! 大将!」
「ホーリィが僕らと逸れないようにしっかり監視しておいてくれよ。パーティの最後尾を、君に任せるよ」
「了解しました!」
元気よく返事をし、いつものように人懐っこそうな笑顔を見せる俺、世渡り上手!
さて、ここらで現状を一度、整理しておくか。
昨日、偶然にもローリエと同じ店で彼女と全く同じように無銭飲食を働いた回復魔法使い兼薬法師のホーリィ・アンクルスは、罰としてローリエと一緒に酒を運搬させられた帰りに俺達とばったり出くわした。(ちなみに二人の飲食代を俺とウォードで折半して店に払ったので彼女らはこの後すぐに開放された)
ウォードのパーティ“ウォーナイツ”と同じ宿を取り、簡単な作戦会議を済ませてから就寝し、今朝早くに移動を開始、このマガマガ・ダンジョンへと至った。
さすがにダンジョン内は危険に満ちているのでエリナとローリエは置いてきた。二人を守りながらでは俺は自由に戦い辛いし何より……。
「さっさとおっ始めようぜ、俺の大戦斧が唸るぜ!」
デカい斧を不用意にブンブン振り回すコイツの存在が危険過ぎる。パワーは凄くありそうだけど、近くに仲間がいてもお構いなしに斧を振ってきそう。頼むぞ……ホントに。
「事前に、鋼糸蜘蛛が目撃されたエリアにはマーキングがされているはずだ。その地点をまずは目指す。上階のザコはいちいち相手をしなくていいからね。体力を無駄にせず、しっかり温存しておくように。特に、ホーリィ、君ね」
「クッチャクッチャ……」
まだ食ってる!!?




