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第4話 金の相談

 酒場は日が沈むにつれ活況を呈してきていた。

 古めかしいレンガ造りの建物、くたびれた木製のカウンターの中で忙しく動き回るスタッフ。たくさんの丸テーブルとそれを取り囲む脚の高いスツール。壁際には使われていない椅子やテーブルが積み重なり、大きな酒樽がいくつも置かれていた。


 安酒を酌み交わし他愛のない会話に精を出す人々の隙間を縫って、俺達はバーカウンターへ向かう。道中、ウォードとノリスに皆が声を掛けてくる。やはり、かなり名の知れた男達のようだ。


「君のお仲間はここにいるのかい?」


 ウォードが訊いてくる。


「多分、そのはずなんだけど……」


 店内にそれらしき姿はない。


「すみませーん!」


 カウンターの奥で(せわ)しなく働いている従業員へ申し訳なさそうに尋ねてみる。


「ん、何だい? 酒の注文かい?」


 豊かな口ひげを生やしたナイスミドルが応えてくれた。


「いえ、ウチのエルフがここで働いていると思うんですが、姿が見えないので」


「あぁ、あの娘か。あれなら今は馴染みの店に酒を届けに行かせているぞ。オリアンテ爺さんのところだ。迎えに行くなら場所を教えてやろうか?」


「いや、その店なら僕が知っている」


 と、ウォード。彼はナイスミドルと軽く挨拶をしてから素早く店を出た。そして迷いのない足取りで道を進む。


「ところで、そろそろ今回の依頼の取り分について相談しておこうと思うのだが」


 先頭を歩きつつ、ウィードが切り出した。やはり、そこは事前に取り決めしておかないといけないよな。


「僕と君、二人のパーティの合同作戦ということになるが……僕は王国正規軍への推挙などに興味はない。君はどうだ?」


「えっと……俺も全く興味ない、かな」


 というか、俺は王国から見放された人間だ。推挙などされたところで逆に困る。


「だったら純粋に報酬の金貨300枚をどのように分配するのか、だが」


「あー、それなんですが」


「ん?」


「ウォードさんの欲しい分だけ持って行ってくれていいですよ」


「……はぁ!? じゃあ仮に、金貨300枚全部僕がもらってしまってもいいのかい?」


「はい、全額欲しいのならどうぞ」


 驚き足を止めるウォード。その隣でノリスも俺を珍獣を見るような目で見ている。

 金は旅先で宿や装備品を調達するのに必要な分だけあればいい。必要になったら何か薬でも作って売ってもいいしね。基本的に金に無頓着な俺だが、野心の強いこの二人からすればさぞや変な奴に思えるだろう。


「何か、裏があるんじゃないだろうね?」


 露骨に怪しむウォード。もちろん裏は、ある。俺だって無償奉仕をしたい訳じゃない。アラクネの糸を獲得する際に単独でダンジョンに潜るのは嫌なのでウォードに協力を申し出たわけだ。それにこの一帯のダンジョンの構造は彼らの方が俺より詳しいだろうから効率よく探索する為にも、ガイドとして彼らをうまく使いたい。


「俺は薬法師なんでね。レア素材をたくさん獲得させてもらえればそれで充分ですよ」


 紛うことなき本心だ。


 首を傾げ、ウォードが(いぶか)し気に俺を眺めているところに、路地の向こうから楽しそうに歓談する声が届いてくる。

 この声は……。


 やがて角を折れ、俺の予想通りのエルフの少女が姿を現した。


「あらら、グレンさんとエリナさん、それと……」


 俺達に気づき立ち止まるローリエ。彼女の隣に、聖職者のような白い法衣を纏った女性がいた。俺が誰何(すいか)しようとする寸前、ウォードが先に口を開いた。


「ホーリィ、君、こんなところで一体何をしているんだい?」


 偶然にも、ウォードの探し人はローリエと同じ場所にいたのだった。


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