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第10話 熊を何とかしろ!

 胎生(たいせい)の哺乳動物が生まれたばかりと思しき子供を放置して遠くに行くとは思えない。子熊がいるということは必ずその近くに、親熊がいるはずだ。


「エリナ!」


 森を抜けた先で俺が見たものは……。


 抱き合って腰を抜かすエリナとローリエ。その向こうで木の幹に繋がれた馬達が興奮して暴れている。


「グレン!」


 切羽詰まった声でエリナが俺の名を呼ぶ。


 巨大な黒い影が、俺の予想通りそこにいた。


 グルルゥゥ……


 低い唸り声を発しながら、親熊は獰猛な牙を咬み合わせて咀嚼していた肉塊(・・)を吐き捨てた。

 熊の足元に転がる二つの死体。一足、遅かったか。


「相当、腹を空かせているみたいだな」


 熊の口腔内より溢れ出す唾液量からそう判断した俺はすぐに、エリナとローリエを庇うべく、彼女らの前に立った。


「熊の肉や内臓は滋養強壮にいいと聞く。興味はあるが……お前を殺せば子熊が不憫だ。おとなしく退いて……」


 一歩、また一歩、熊は俺に向かって進んでくる。人間の言葉を理解してくれるわけも無い、か。


「そうか、あくまで殺る気か。だったら仕方ない。俺もこんなところでお前のエサになりたくないからね」


 恐らくは俺達の持っている保存食か、馬のにおいに反応して寄ってきたのだろう。エリナとローリエを守るためにも、ここで俺が躊躇っているわけにはいかない。


 グルルゥ……。


 牙をむき出しにして、極太の四肢を動かして俺に接近してくる熊。すぐに突っ込んでこないということは俺を警戒しているのか。いい判断だ。出来ればそのまま逃げて欲しかったが。


 俺はズボンのポケットから秘密のアイテムを抜き出し、赤黒い棒状の乾燥肉(ビーフジャーキー)のようなそれを右手に握り込む。


 熊が一瞬立ち止まり、後肢で地面を掻いた。


 来る!


 ガアゥ!


 鋭い咆哮を共に、巨体が俺目掛けて突っ込んできた。大口を開け、鋭い牙を誇示しながら俺に噛みつこうと迫る。あの一撃は人間の肉くらいなら簡単に引き裂いてしまうだろう。


「許せよ……」


 俺は呟き、右手を振るった。秘密のアイテムが投擲され、見事にそれは熊の口の中に収まった。


 反射的にゴクリと、熊が喉を鳴らした。


「宮廷ティマー達の魔獣調教を補助する目的でこの俺が開発した薬、名付けて“魔チュール”だ。お前はもう、調教完了している!」


 熊が動きを止めた。そして直後、ごろーんと巨体をひっくり返して俺に腹を見せたのだった。


「にゃーん」


 熊が体をもぞもぞしながら鳴いた。

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[良い点] 「にゃーん」 魔チュールシュゴイイィィっ
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