第1話 万能生産スキルを駆使して国に尽くしてきた宮廷薬法師、財政赤字の責任を押し付けられてまさかのクビに!?
「誠に残念ながら会議の結果、本日をもって君のヤンク王国宮廷薬法師としての全権を剥奪し、任を解くことになった」
ヤンク王国宰相ムノーは無情にもこの俺、グレン・レオンハートにそう告げた。
「……はぁ?」
王国の財政がヤバいとは聞いていたが、よりにもよって宮廷薬法師を、しかも主任薬法師である俺をクビにするって?
「はぁ? じゃないわい、グレン。アルトラ王の金を湯水のように使い倒して勝手気ままな研究に明け暮れおって。お前が遊び惚けてる間にも、ヤンク王国は領内の魔物退治や周辺の列強国との戦争で苦しい情勢が続いておるのだぞ?」
「いや、お言葉を返すようですが宰相、俺の開発した万能回復薬スグナオールEXは最前線の兵士達にも大好評でしたよね? 功績残してると思うんですけど」
「あんなもの、他の薬法師でも作れたわい。たまたま、お前が最初に開発しただけのもんじゃろうが。スライムの魔素分解と成分変換など、在野の薬法師でも出来ることじゃ」
あぁ、まぁ確かに。在野の、一部の天才的なセンスを持った薬法師だったらね。
このムノーという爺さんは非常に頭が固い。あと、貴族出身でずっと宮廷暮らしだから非っ常~~~~に、世間知らずだ。それに加え、
「そうだよ、君は頭が高いんだよグレン」
ムノーの隣で俺を指さして唇を尖らせているこの小太りの男、イーノが同調する。宰相の一人息子であり、旧態然とした閥族政治が蔓延るこのヤンク王国においては次期宰相の座はほぼ確実。父親の血を色濃く受け継ぐ厭味ったらしい口調が持ち味の彼は、俺といつもウマが合わない。
俺はあんまり派閥とか出自を気にしないタイプだし、何となくでこの地位まで来てしまっただけの人間だ。アルトラ王の勅命によって何故か主任薬法師になってしまったが、運が悪ければ一生在野の、しがない一薬法師止まりだっただろう。
「薬法師の代わりはいくらでもいる。君にこれ以上、予算を割く必要はないと元老院のお歴々も言っておったぞ」
クソ、あの死にぞこないどもめ!
そもそも代わりの薬法師ってそれ、俺が育てたんですけどっ!?
「しかしですね、あと少しで新しいポーションも開発できそうなんですよ。旧来のものより回復効果が格段にデカくてしかも一定時間基礎代謝を大幅に増大させて兵士のスペックをヤバいくらい底上げしてくれる代物ですよ?」
「うるさい、そのポーションの開発の為に、一体どれだけの予算が投入されているのかわかっておるのか? 素材の獲得の為に軍隊も動かしよって。危険なダンジョンまでわざわざ潜らされる兵士の身にもなってみたらどうだ?」
「犠牲者は出ていないはずですが?」
スグナオールEXをたくさん渡しておいたからね。あと強力な魔法・腐食耐性を武器に付与するサビーヌαとか剣や盾に属性魔法を簡単に重ねがけ出来る塗り薬エレメンターレとか、疲労がポンと飛ぶ秘密の薬とかも持たせておいたし。
「そういう問題ではないのだ。卑しい身分出身のお前が、あまりにも宮廷内で強大な権力を持ちすぎていることに加え、金の無駄遣い、あと態度が悪い。なんだ、そのヘラヘラした顔は!?」
「顔はもとからこんなですよ!」
飄々としてると言ってほしいな。まったく。
「やかましいぞ、凡人! 父上の言う通り、お前は用済みなんだ。さっさと荷物をまとめて出て行け」
「イーノお坊ちゃま、せめて引き継ぎだけでもさせていただけませんか?」
「不要! 既に次期主任宮廷薬法師の選定は済んでおる。お前は今すぐ、この城から立ち去るがいい」
有無を言わさず、ヤンク宰相は俺を追放してしまった。宮廷薬法師の資格を剥奪されてしまっては、もうこれ以上国の為に尽くすことは出来ない。
っていうより、尽くす義理もないって感じか。
はーっ、参ったな。
俺は荘厳にして堅牢たる城の門扉の前で少しの間途方に暮れてから、身の回りの品を詰め込んだ麻袋を肩に担いで歩き出した。
まぁ嘆いていても仕方ない。これからは適当に薬を売り歩いて生計を立てるとしようかな。