草の命の短くも
今日も寒い。
舗装された広い道。
日は既に没している。
赤信号に制止され、横断歩道で踏み止まる。目の前を立て続けに乗用車が、バスが、トラックが唸りをあげて通り過ぎてゆき、地面が揺れる。
鉄の巨体が横切るたび、空気が振動する。そして、風が吹く。白い呼気がふわっと左の方へ流されて暗闇に消える。
白く、あるいは黄色く、赤く光るカーライト。光点の列は視界の限り続いている。無機質な光の連なりは文明の光でもあり、星々の光のようでもあった。鋭く、眩く、寂寥を感じさせる光だ。
この光を地上の天の川と喩える嘘だ。流れ星と喩えても嘘だ。もっと寂しい光だ。
流れてゆく。近づいては過ぎてゆき、過ぎてはまた次が近づく。
凍えるような夜。ひとりぼっちで見る、無限の光列。
また一組。光点が走り去り、風が吹く。
信号は青になる。
光列を横切って道路の向こう岸に渡る。
一本の背の高い草が生えていた。舗装を貫通し、歩道に根を張っているのだ。
光列が再び動き出すと、その草はふらふらとよろめいた。
しかし、足だけは、断固として地に張り付いていた。
それから何日経ったか。
ある朝。
その草はそこに立っていた。
日の光を浴び、誇らしげに。背も随分と伸びた。
通勤ラッシュの車列の風圧を真正面から受け、その草は大きく揺れる。それでも、倒れることはない。決して。
あたりの背の低い草は黄色や茶色に変色し、冬という季節に屈服したようである。
だが、その草は春を思わせる鮮やかな緑であった。
その草は萌えていた。その草は、今この瞬間も全細胞で呼吸しているのだ。氷点近い冬の空気を取り込み、ミトコンドリアで激しく燃焼させているのだ。熱く、熱く、熱く。彼は、生きているのだ。
彼は冬を越せない。
それは摂理であり、構造上の限界だ。
だが、彼は抗っている。
風圧に耐え、寒さに耐え、たった一人で。
その朝。
長身を誇った彼は、中ほどから無残に半分に折れていた。あのときと同じように朝日を浴びるも、やや黄緑がかった肌は痛々しい。
彼は負けたのだろうか。
否。
彼はきっと満足し、冷たいアスファルトに身を横たえ、最後の呼吸をするのだ。植物は動物よりずっとゆっくり死んでゆくのだろう。
彼は走馬灯に何を見るのか?
秋の青空か?ついに見られなかった春の夢か?無限の光列か?
自転車が通り過ぎてゆく。
乱暴に、彼を踏みつけて。