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「しかし、まぁよく眠りますねぇ」

 航海士は娘を見下ろすと、だらしのない笑みを浮かべた。

 娘の入った檻は、ジェム・ラ・モウル号に運び込まれた。アンジーと航海士は、船長室に置かれた檻を囲んで向き合った。娘はいつまでたっても目を覚まさなかった。

「とりあえず檻から出してやるか」

 鍵でも持っているのだろうかと、航海士が船長に目をやると、彼は銃の撃鉄を起こしていた。驚いた航海士が、何をする気かと尋ねる前にアンジーは引き金を引いた。

 銃声が鳴ったあと錠前は壊れ、檻はあっさりと開いた。

「撃つなら撃つって先に言ってくださいよぉ」

 涙目になる航海士と、銃声を聞きつけて飛んできた乗組員をよそに、アンジーは娘を抱き上げた。驚いたことに娘はまだ眠っていた。

 何とも心地よさそうな顔である。

 娘をベッドにおろすと、航海士に乗組員たちを仕事に戻すように促した。


 ひどい睡魔に襲われて、うつらうつらとするうちにアンジーはすっかり寝入ってしまったようだった。外はもう日が暮れて、船内は薄暗くなっていた。立ち上がりロウソクに火をつけた時、ふと渇きを感じアンジーは酒を飲もうとグラスに手を伸ばした。机の上に放置されていたグラスを手に取ると、ひびが入っていたのだろうグラスは割れて、ロウソクの光を反射させながらその破片を床に落とした。アンジーは散らばった破片を拾うと、窓から海に投げ捨てた。

 窓を閉めるころには、酒を飲むのも面倒になりまたベッドの横にある椅子へ腰を下ろした。指にグラスの破片で切ったであろう切り傷を見つけ、アンジーはため息をつく。

 顔を上げると、ちょうど娘が目を覚ました。娘はアンジーの顔を見て困惑した表情を浮かべたが、それだけで悲鳴を上げたり取り乱したりはしなかった。ただ不思議そうな顔で、部屋の中を見渡している。

「やっと起きたか。よく眠っていたな」

 娘は怯える様子もなく、アンジーの顔をじっと見つめた。美しいサファイアの瞳に見つめられ、アンジーは胸を締め付けられるような感覚に陥った。

「お前、名前は?なぜ檻に入っていた?」

 目を逸らしながら娘に尋ねる。

 娘は何も言わなかった。

 もう一度同じことを尋ねてみたが、やはり娘は黙ったままだった。

「俺の言っていることは分かるか?」

 娘は上目づかいにアンジーを見るとこくりと頷いた。

 言葉は通じるようだ。

 ならば

「お前、話せないのか?」


 娘は口がきけなかった。

 アンジーはゆっくりとした口調で、イエスかノーかで答えられる質問をいくつかした。だが、娘は困ったように笑うだけで何もわからなかった。言葉は通じているというのに、娘は何も答えたがらない。娘の笑みはアンジーに質問することを諦めさせた。


 娘は良く働いた。

 娘は一言も話さなかったが、よく笑った。娘がいるだけで、そこは明るく賑やかな場所になった。荒っぽい男たちも、娘を自分の家族のように可愛がった。しかめ面の男たちが娘を前にすると、とろけたように笑う様子はなんともおかしなものだった。顔にこそ出しはしないものの、アンジーも例外ではなかった。むしろ、輪をかけたように娘を可愛がった。娘の寝床がないというと、娘に自分のベッドを譲りアンジーは隣の長椅子で眠った。


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