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二重人格王子Ⅲ~異世界から来た俺は王子と砂漠を目指す~  作者: さつき けい


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69・転移者は怒りに震える


 俺はウザスの酒場でトカゲ族の若者たちと話し込んでいた。


「で、南方諸島連合だったか。


あそこの代表は海賊上がりのただの野獣だ」


「な!」


俺は心臓を掴まれたような痛みを感じた。


 ソグは姫の事情を知らない。 不思議そうな顔で俺を見ている。


「それは今更だな。 有名な話だ。


黒い髪に赤銅色の肌、燃えるような赤い目をしている。 亜人ではないが、気性の荒い獣のような男だ」


「確か結婚しているんだろ?」


「ああ。 相手は同族の女性で性格も似てるな。 そういう国柄なのだろう。


他にも色々と噂はあるが、気に入ったモノは無理してでも手に入れようとするらしい」


俺は衝撃的な内容にごくりと息をのんだ。




 デリークトと南方諸島連合の交易は、主に砂糖などの調味料や香辛料だ。


高級な砂糖などを小さな島国から安く仕入れ、アブシースなど他国へ売る。


「確か縁談があるんだよね?。 デリークトの姫様と」


婚姻での国同士の結び付きは交易が安定する。


山狩りで一緒だった海トカゲ族の若者が俺の異変に気付いて声を落とした。


「友好など考える男じゃないですよ。 国としての人質っていうところでしょうね」


小国はいつ交易相手である大国から裏切られるか冷や冷やしているところがある。


俺はこぶしを握りしめ、冷や汗が背中を伝うのを感じていた。




 だけど今日初めて会った男は俺のことなど気にする様子もない。


「妾か、奴隷ってとこかな」


「え?」


ギリギリと心臓が痛い。


「第二夫人とかじゃ……」


「あはは、あんな男があの『呪われた姫』をまともに扱うもんか。


まあ、良くて愛人扱い。 下手をすれば幽閉の上で慰み者だろう」


そう言ったトカゲ族の男に俺は殴りかかりそうになった。


ソグが俺の腕を掴んで止めなければ、きっとそうなっていた。


「今日は悪かったな。 また情報があればサーヴの我のところまで知らせてもらえるとありがたい」


ソグは彼らにそう言うと店の勘定を済ませ、俺の腕を掴んでその店を出た。




「姫の縁談の話は本当か?」と、ソグが訊いてくる。


この世界ではきっとごく普通のことなのだ。


だけど俺の身体は怒りで震えている。


ここでは話せない、と言うとソグに怪しげな地下にある飲み屋に連れて行かれた。


 扉を開くと一斉に店員や客たちが俺を見た。


どうやら亜人しかいない店のようだった。


「酒はいらん。 水をくれ」


ソグは店員にそう頼んで俺を店の隅の席に座らせた。


人族の姿をした俺を客の亜人たちが憎々し気に見ているのが分かる。


今の俺にはどうでもいいことだが。




「……本当だ」


侍女であるルーシアさんがわざわざ伝えに来たのだから。


俺の言葉にソグの雰囲気が変わる。


「相手が諸島連合の代表ということか」


「ああ」


俺はカップを割れそうなくらい握りしめていた。


「国と国との問題だ。 俺にはどうすることもできない」


ソグに話したところで何も変わりはしない。


分かってる、ただの愚痴だ。


「我が主らしくない言葉だ」


俺は顔を上げて表情が分かりにくいトカゲ族を見上げる。


「いつものネス様なら、きっと抜け道を探してどうとでもなさるだろう」


どこまで俺を買い被っているんだ、と苦笑が浮かぶ。


 ソグの冷静な態度とその声を聞いていたら、俺も少しは落ち着いてきた。


「そうだな。 俺のやれることを考えよう」


王子の言う通りだ。 やれないことばかり考えていてもしょうがない。


俺たちは酒より高い水代を支払って店を出た。




 旧地区に戻ってソグと別れた後、俺は教会裏の通信魔法陣に手紙を乗せた。


南方諸島連合国とアブシース国の関係について教えてもらうためだ。


俺たちが何かやって国が面倒ごとに巻き込まれたら不味いからね。 


 相変わらず眼鏡さんからは報告書のようなものが届いている。


それには目を通すだけで返信はしない。 俺には何も言う権利はないからだ。


だけど王子の妹のアリセイラ姫の近況などはありがたいと思う。


「そういえば、アリセイラ姫の婚儀も近いね」


未成年で婚約した王族は成人をもって正式に結婚となる。


王子より六歳年下の彼女も十四歳。 来年の成人をもってイトーシオ国に嫁ぐ。


「フェリア姫は王子より三歳年上だったな。 成人同士なら婚儀は早いのか?」


婚儀の日取りも調べる必要があるな。


『その日までに解呪出来ればいいな』


そのためにも俺たちは早く解呪の方法を手にいれなければならない。




 翌日からしばらくは王子が動いてくれていた。


俺はブツブツ考え事をしているばかりなので使い物にならないからだ。


王子は毎日、砂族のガーファンさんと遺跡の魔法陣をいじっている。


「一度、本物を見たいですね」


「そうですね。 実際に見てもらったほうが早いでしょう」


王子はガーファンさんとサイモン、砂狐二匹、そしてソグを護衛としてオアシスに向かうことにした。


 トニーも同行したがったが、


「お前はクロの訓練を優先してくれ」


とお願いしておく。


「荷車を引くことは砂狐にすれば結構難しいからな」


【ふ、ふんっ。 そんなことは簡単だ】


若い砂狐であるクロは粋がっているが、人のいる町で暮らしたことがない。


だからたぶん分からないことも多いだろう。


「お前が頼りなんだよ」


俺はトニーの背中をバンバン叩いて励ます。


「はあ、師匠がそう言うなら」


クロは何も知らない子供のようなものだ。


ずっとリタリと小さな子供たちの面倒を見てくれた彼なら出来ると思う。




 オアシスまで片道二日。 魔法陣の調査と往路で、最低五日はかかるとみている。


その間のことはリタリやロイドさんにお願いした。


「あ、あの」


早朝、教会の裏手で出立の準備をしているとエルフさんが顔を見せた。


ソグが教えたのだろう。


「ネスさん、これを持って行ってください」


彼女のお守りである髪飾りを差し出してくる。


「え?」


「どうしても今、渡さないといけない気がして」


お守りだからと言って王子に押し付けてきた。


「今でなくてもいいので、いつかエルフの森へ行ったら、お祖母ちゃんに私は元気だと伝えて欲しいのです」


これはその証だ。


いや、どうなんだろう。 無理矢理奪ったとか思われないかな?。


「ふふっ、そんなことをしたらこの髪飾りが黙っていませんもの。 大丈夫ですよ」


エルフさんの笑顔を久しぶりに見た気がする。


「ありがとう。 では」


王子一行は砂漠へと足を踏み出した。




 冬の終わりが近く、日差しは柔らかい。 春はもうそこまで来ている。


砂漠では風が強く吹いていることが多い。


足元を砂がざわざわと流れるように動く。


たまに見かける低い木や岩は、砂に削られて丸くなっていた。


 王子の分以外の食料や宿泊用の一式を入れた魔法収納の鞄をソグに持たせている。


ガーファンさんにも一部を鞄に入れて渡した。


強い風が吹くと一瞬周りが見えなくなることがある。


もし砂漠ではぐれた場合に少しでも生き延びるために。


「こ、これはすごいですね」


王都で生活していただけあって、この鞄がかなり高価だということは知っているようだ。


「自作ですので気にしないでください。 それよりもはぐれないように」


アラシにはしっかりサイモン親子についているように頼んだ。


砂族と砂トカゲである同行人は、思ったよりしっかりと砂漠を進む。




 出発から二日目、オアシスに着くとすでに日暮れが近い。


水場は池のような大きさから湖といえるほど広がっている。


王子がここに来る度に少しずつ拡張していたからだ。


「あそこです」「あっちー」


王子が崩れた壁を指さすと、サイモンがアラシと共に走って行く。


そのあとを追い、今夜はその壁の側でテントを張ることにした。


 水場で身体を洗ったり、食事を用意したりして過ごす。


ガーファンさんはどことなく懐かしいと言って周辺を見回っていた。


 サイモンが眠ると最後の打ち合わせを始める。


王子は昼間は赤いバンダナで声を発し、夜は念話鳥を出して会話をしている。


「明日、私の転移魔法陣で中に入ります。 足元が暗いので注意してください」


ガーファンさんと二人で飛ぶ予定だ。


「ソグさんはサイモンたちと一緒にここで待機です」


心配するソグに数時間ごとに戻ることを約束する。


「失礼ですが、ネスさんはそんなに何度も転移魔法を使えるんですか?」


同じ魔術を使う者として、転移魔法は魔力消費が半端ないことを知っているのだろう。


「ええ、大丈夫ですよ。 こうして予め魔法陣を描いた紙に魔力が込めてあるのです」


魔法陣帳を見せる。


納得して頷く砂族の男性に王子は胸を撫で下ろす。


王子の魔力量チートを知られると王族だとバレる恐れがあるからね。


さて、明日は魔法陣を具体的に止める作業の下見になる。



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