表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二重人格王子Ⅲ~異世界から来た俺は王子と砂漠を目指す~  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/72

33・転移者は隊長を窺う


「カシンです。 よろしくお願いします」


黒い狼獣人の息子は、母親が犬の獣人だったそうだ。


親子は多くは語らないが行方不明らしい。


俺が彼を教会の子供たちの勉強に誘ってみると、感触は悪くなかったので参加させてみた。


 カシンは身体の大きさは大人に近いがまだ成人前だった。


一緒に山狩りや体力作りをやった仲間として、トニーとリーダーが面倒を見ると言ってくれた。


三人が仲良く並んで座っていると、他の子供たちは不思議そうな顔をしている。


狼犬の少年は勉強は初めてで戸惑っていたが、


「これはこうなのよ」


と、小さな子供たちまでが彼に教えていたから大丈夫だろう。


あの子たちは子狐をかわいがるサイモンを羨ましがってたから、カシンはペット感覚なのかな。


確かにカシンの尻尾は子狐たち並みにフサフサだしな。




 そろそろ一度砂漠の中に入ってみたい。


俺は砂族であるサイモンと砂狐のユキとアラシを連れて砂の山に挑む。


とはいっても、俺以外はまだ小さな子供ばかりなので町が見える範囲にいる。


少しずつ慣れていけば良いと思う。


今は季節が初春なのでまだ大丈夫だけど、夏になると砂が熱くて入れなくなりそうなんだよね。


そうなるとおそらく調査は出来ない。


『何か対策を考えておかないとな』


うん、王子よろしく。




 子狐たちは、相変わらずピョンピョン飛んでは砂に顔を突っ込んでいる。


「あれが砂狐たちの狩りの練習のようだな」


「うん」


俺とサイモンは微笑んでその光景を眺めていた。


すると町の方角から誰かがこちらに向かってくるのが見えた。


「師匠、ししょーー!」


トニーのようだが、ちょっと慌てているようだ。


 サイモンに子狐たちを任せて、トニーのほうへ向かう。


「どうした?」


ハアハアと荒い息をしながら、トニーが苦しそうな顔で俺を見る。


「あ、あの、えっと、客が、ミラン、さんが、呼んで、来いってー」


「ん?」


俺は鞄から水筒を出してトニーに渡し、サイモンと子狐たちに町に戻るように指示を出す。


「客?」


町に向かって歩きながら、少し落ち着いたトニーに訊いてみる。


「あ、はい」


歯切れが悪いのは砂漠のせいだけではないようだ。


「客というか、峠の見張り台の兵士の隊長が」


ああ、あの老けた隊長さんか。


「分かった。 ミランのところにいるんだね?」


俯いたままのトニーはこくりと頷いた。


あの隊長は確かトニーの父親疑惑があったんだったな。




 ウザスとサーヴの町の境にある峠の見張り台には数名の警備兵がいる。


彼らはウザスでは役立たずだの怠け者だのと言われていて、その隊は国軍の左遷場所になっているらしい。


そこの隊長はガタイの良い壮年の男性だが、十数年前に王都から流れてきたという話だった。


 地主屋敷の玄関でロイドさんに出迎えられる。


俺は軽く砂を払い、バンダナを念話鳥にして挨拶した。


「どうも、お待たせしました」


「いえいえ、調査中にお呼びしてすみません。 若様があなたを呼んで来いと申しまして」


案内された応接間にはミランと隊長の二人がいた。


ハンナさんがお茶とお菓子を置いて下がると、ミランが口を開いた。




「それで?。 隊長、あなたは私がウザスで兵士を募集したのが気に入らないと」


隊長は隣でのんびりお茶をすすっている俺をチラリと見た。


「そうだ。 山狩りはワシらの仕事だからな」


ミランは俺を顎で指した。


「しかし、ここにいるネスが早急に山狩りが必要だと」


俺は一度コクリと頷いて、隊長に顔を向ける。


「先日は峠で襲われていたところを助けていただいて、ありがとうございました」


肩に乗った小鳥がお礼の言葉を発すると、隊長は少し目をすがめた。


「お前はあの小鬼に追われて見張り台に助けを求めて来た男か」


胡散臭そうに見られるのには慣れてる。


「ええ。 あの時、とにかく次から次と森から小鬼が出て来て大変でした。


私一人が通っただけであの量に遭遇したのです。


このままでは、これから春の農作業をする者が危険に晒されると思いました」


「そのためにワシらがいる。 農作業が始まる前に山狩りをする予定だったのだ」


ウザスの穀倉地帯ではすでに農作業は始まっていた。


それなのに、サーヴの町では小鬼の被害が出るため、誰も作付けを始めていない。

  

新地区の農地はほとんどが山手の館の私有地で、石塀に囲まれているにも関わらず、だ。


やはりそこにはウザス領からの何らかの圧力があったのではないかと俺は思っている。




 俺はこれ見よがしに大きくため息を吐く。


「今回の山狩りで、私は森の奥に大きな小鬼の群れを発見しました。


あのまま放置していれば、じきに森だけでは足りなくなって、町にも押し寄せていたでしょうね」


小鬼は季節に関係なく増え続ける。 そしてそれに押されるように獣たちが暴走しかねない。


「ふん、それはお前の推測だろうが」


隊長は隣に座る小柄な俺を馬鹿にしたように見下ろす。


「ワシは十年以上もこの町で森を見て来た。 来たばかりのお前に何が分かる」


全くこちらの意見を聞こうとしない。




 俺はふっと笑顔を見せる。


「な、なんだ。 気持ち悪いな」


俺はチラリと窓の外の教会に目をやる。


「実は、私は森の調査にこの町の子供たちを雇っていましてね」


少し上目遣いに隊長を見ると、それがどうした、という顔をしていた。


「彼らは成人も近いですし、子供たちだけで森に入ることもあります」


ミランは眉間にしわを寄せて聞いている。


「一番危険なのはその子供たちですよ」


小鬼の大群がいる。 そんな森に成人前の子供たちがいるなど考えても見なかったのだろう。


隊長の顔が青くなった。


窓の外にはトニーをはじめとした成人前の少年たちがいる。


「そ、それはお前が子供たちを森へ差し向けなければいいだけの話だ」


俺は明らかに狼狽えた隊長の様子をうかがう。




「でも、住民が肉が入手出来なくなっているのは知っているでしょう?」


小鬼は雑食で、森の植物だけでなく自分より弱い獣や家畜を襲う。


「森の獣の調査をしていたのですが、本当に数は減っているようですよ」


小鬼の巣には小さな獣の死骸が多かった。


最近は猟師が森に入っていないにも関わらず、手頃な大きさの獣の姿を見るのは稀だ。


 俺が森に入って獣を捕らえられたのは王子の魔法陣のお蔭である。


小鬼から逃げ隠れすることが得意なウサギなどの小動物を気配察知の魔術で探すのだ。


お蔭で魔鳥などの魔力のある獣のほうが見つけ易い。




 本来、森の獣というのは敵がいなければ増殖する。


つまり、小鬼を敵として逃げ隠れしている獣は減り、それをものともしない大型の獣が増える傾向にあるのだ。


狩猟に適さない獣ばかりが森の奥に残っている状態ということである。


「今回の山狩りでも小鬼と灰色狼ぐらいしか狩れていません」


春に入り、奴らも溜め込んだ餌が無くなる頃だ。


まだ森の恵みは少ないので、食料が足りない今だからこそ危ない。


「小鬼が減ったため、今度は獣の被害が増えるかも知れませんよ」


ここからが峠の警備兵たちの仕事だと俺は思う。


「ふ、ふん。 それくらい分かっとる」


兵士たちは毎年、春に訓練を兼ねて山狩りを行うそうだ。


そういえば、先日来ていたウザスの領主の私兵たちも若い者が多かった。


「訓練の一環でしたら、この旧地区の若者も同行させてはいかがですか?」


俺はそう提案してみたが、隊長は、


「足手まといはいらん」


と言って帰って行った。


いやいや、峠の見張り台って何人いるんだ?。


その人数で抑えられるのか、俺は少し心配なんだけど。




「その心配はいらんだろ。 新地区の領主にも一応は私兵がいるしな」


ああ、この前の猟師の真似をしていた使用人とか?。


ミランは楽観しているようだが俺は余計に心配になる。


あんな私兵で大丈夫なんだろうか。


「この間の山狩りで小鬼はほとんどいなくなったんだろう?。


あとは獣だけなら奴らだけで何とかするだろうさ」


 先日、峠で兵士たちには助けてもらった。


あの時は小鬼が相手だったから何とかなったが、見張り台の兵士たちは人数も少ないし、あまり強さは期待出来そうもない。


ただ隊長の腕っぷしだけは確かだった。


何故こんなところに飛ばされて来たのか不思議なほど兵士たちからも人望はあるらしい。


「そうですね。 ここで心配していても仕方がないですね」


俺はただ不安な顔で頷くしかなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ