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二重人格王子Ⅲ~異世界から来た俺は王子と砂漠を目指す~  作者: さつき けい


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30/72

30・転移者は亜人と出会う


 五日が経ってもウザスの領主からの許可が下りない。


斡旋所へは何度も問い合わせしてもらっているが、まだ何も動きがない。


「くそっ、酒返せってんだ」


ミランは毎日イライラしていて、昼間禁酒の約束も破られそうだ。


毎日子供たちの世話と勉強と家畜たちの様子を見ながら、俺もまんじりともせずに過ごしていた。


「何か出来ることはないんだろうか」


こうしている間にも砂漠や、山の奥の野生動物たちは小鬼や灰色狼に狩られていく。




 子狐のユキは昼間はサイモンたちやアラシと一緒にいるが、夜は相変わらず俺のベッドで一緒に寝ている。


王子と俺との会話にも反応するのは魔力を分け与えているからかな。


【どっちもねす?】


「そうだよ」


と俺が言うと、王子は、


『もう一人はケンジ、だよ。 ただし、普段はネスだ』


ユキはかわいらしくコテンと首を傾げる。


「あはは、混乱しちゃうよね。 気にしなくていいよ。


ネスもケンジも同じ、二人で一人なんだから」


ただ、ケンジという名前はもう王子しか呼んでくれないけどね。


俺はモフモフを撫でまわす。


ニャフンと嫌がりながらも構ってもらうのがうれしいらしく、ピョンピョンと部屋の中を飛び回っている。




 その日の真夜中に俺は家を抜け出した。


『やはりこれしか方法はない』


「んー、どうかなー。 これだってうまくいくとは思えないけどなあ」


俺と王子はそんな会話をしながら隣の教会へ静かに足を運ぶ。


 この教会は出入り口が五つ有り、正面の石段がある入り口と、正面から右手側に竈やお手洗いなどがある裏口。


建物の真裏には左右に男女別に子供部屋用の出入り口が有る。


そしてその壁の中央には魔力で隠された秘密の扉があった。




 その教会の極秘の出入り口から神像の裏部屋へ入る。


<照明>の魔法陣を組み込んだ魔道具のスイッチに触れ、部屋を明るくした。


奥の壁の中央にある台座に、大人の掌くらいの小さな神像を置く。


この町の道具屋で手に入る大きさはこれが精一杯だったのだ。


「そのうちもっと大きいのにします」


俺はそう言いながら手を組んで祈る。


『紙を入れるぞ』


「ああ」


台座の下にある通信用魔法陣の扉を開け、王子は自分の魔力で作った一枚の魔法紙を置いた。


何も書かれていない真っ白な紙。


それでも分かる者には分かるだろう。


どこに届くかは知らないが、出来るなら王子の味方に届いて欲しい。


この町が無くなる前に。


王子は調査ついでに書き直した通信用魔法陣に魔力を込め、発動した。



 

 翌日ウザスの斡旋所の所長から返事が来た。


同時に、船でゾロゾロと二十名ほどの兵士と、猟師や亜人たちもやって来た。


人が届いたということは、その翌日が決行の日ということだ。


 俺がロイドさんに呼ばれて地主の屋敷に行くと、ピラッと一枚の紙を見せられる。


「全く。 どうしようもないな、ウザスの領主も」


ミランは吐き捨てるように言った。


その紙には明日の日付と送った人数分の日当の金額が書かれている。


ミランが提示した金額の他に、超過分が記載されていた。


「予定より長くなればそれだけの金を払えということらしいな」


何故、自分の土地で雇うのに他の土地の領主に支払わなければならないのか。


「斡旋所の管轄がウザスだからだ。


差額はウザスの斡旋所への手数料という名目だな」


サーヴでは人が集まらないし、新地区の領主の許可も下りない。


そのため仕方なくウザスへ申請したのだが、やはり一筋縄ではいかないようだ。




 それでも、待たされた上にすでに斡旋所から手配した者たちが来ている。


今更断ることも出来ない。


「お金は何とかなるでしょう」


狩った獣や魔獣の素材を売れば補填出来るだろうと言ったら、


「それも斡旋所を通しての買い取りになるから安く買い叩かれるけどな」


と、ミランは苦笑いを浮かべた。


俺は納得出来ず、ミランのようには笑えなかった。




 旧教会前の広場に集まっている山狩りの連中に怯えて、子供たちは教会裏の部屋に隠れている。


早くこいつらをウザスへ追い返さないと、この町の治安も心配だ。


代表を務めるウザス領主の私兵がミランの所にやって来た。


「いつから始めるんだ?。 俺たちはいつでもいいぞ」


俺はフードを深くかぶり、赤いバンダナで口元を隠している。


「ああ、明日の早朝から始めよう。 こいつの指示に従ってくれ」


俺がミランの隣へ出る。


大柄な私兵の代表は、ミランより頭一つ低い俺を見下ろしてフンッと鼻を鳴らす。


「これを読んでおいてください。 編成はそちらに任せます」


俺は今回の山狩りの注意点や合図の仕方を書いた紙を渡す。


今回は五人一組の編成で、五組が山に入る。


本当は一人ずつチェックして編成したいところだが、何せ時間がない。


すでに空は赤く染まり始めていた。




 旧地区には宿が無いので新地区の宿を人数分を抑えてもらおうとしたが、すでに手配済みで数人があぶれていた。


その数人がすべて亜人だ。


俺は彼らに空き家を貸してやって欲しいとミランに頼む。


ミランは顔を引きつらせていたが、俺の頼みなので仕方なく一番山手の畑跡にある家を一軒貸してくれた。


すぐ近くに畑用の井戸もあるので不自由はないはずだ。


家自体もすでに俺が掃除し修復済みである。




 亜人といっても様々な種族がいるようだ。


獣型、爬虫類型、ドワーフなどの妖精型など。


今回派遣されてきた亜人たちの中には爬虫類型のトカゲ族という者がいた。


この辺りではあまり珍しくはないらしいが、俺は初めて見るその鱗の肌や背の高さに驚いていた。


他にも犬っぽい若い獣人がいて、そのフサフサの耳やしっぽに釘付けになる。


しかし、彼らのほとんどが痩せて目がギラギラしている。


 俺は、心の中ではうれしくて、はしゃいでいた。


「よろしければ食事をご一緒に」


俺がそう言うと、亜人たちは驚いて顔を見合わせた。


ウザスでは彼らは人間扱いはされないらしい。


 俺は鞄からパンと肉を出し、家の外でキャンプのように焚火で暖を取りながら話をする。


「あなたはおかしな人だな。 フードはかぶっているが人間だろう?」


狼族の成人男性が俺に訊いてくる。


「ああ、失礼した」


俺はフードを脱ぎ、バンダナを念話鳥にする。


ザワッと空気が波立つが、彼らは魔術など見慣れているのだろう。 すぐに気配は落ち着いた。


「私は病気で声が出ないのです」


そう言って鳥が代弁することを了承してもらう。


「なるほど。 その怪しげな姿は声を出すためのモノだったのだな」


黒っぽい毛並みの狼獣人は頭の回転が良さそうだ。


俺は微笑んで頷く。




 文字を読めない彼らに代わって、先ほど兵士に渡した紙を読み上げる。


全員が了承したと短く返事をして頷いた。


一組五人というのは目安だ。


亜人は総じて身体能力が高いから、少ない人数でも大丈夫だろう。


「では、この町の若者をあなた方の組に入れてください」


トニーとリーダーを彼らに付けるつもりだ。


森の案内も出来るし、トニーたちの勉強にもなるだろう。


もう一組には俺が入るつもりだ。


 無表情に見えるトカゲの亜人が、


「いいのか?。 我らは亜人であるが」


と声を落として話かけてきた。


俺は首を傾げる。


「それがどうかしましたか?。 今は明日の山狩りの同じ仲間です」


亜人たちは今日何度目かの驚いた顔をしていた。


お酒は飲めるというので軽い酒を選んで彼らに渡し、俺は家に戻った。




 翌朝、山狩りのためにいつもより早めに起きて掃除をする。


眠れなかったのか、トニーをはじめ男の子たちが起き出してきたので朝食の前に一緒に体力作りを始めた。


いつもの道を走っていると亜人たちの姿が見えたので、「ご一緒にどうですか?」と声をかける。


若い獣人が一緒に走り出し、他の亜人たちも俺たちの後を付いてきた。


 教会前で身体をほぐす。


俺はリタリたちに彼らの分の食事も頼んだ。


「う、うん。 いいけど、何を食べるのかしら?」


「リタリ、何を言ってるんだ。 俺たちと同じに決まってるだろ」


俺は笑いながら彼女に食材を渡す。


 軽い運動の後、緊張しながらもリタリは作った食事を配ってくれた。


子供たちはいつものように教会横に設置したテーブルで食べる。


俺は亜人たちと一緒に噴水の側でパンとスープの朝食をとる。


「この肉はうまいな」


滋養に良いといわれる大蛇の肉をパンに挟んでおいた。


お昼の弁当にも同じものを用意していると言うと、さらに喜ばれた。


食事を終えたトニーとリーダーの少年が合流して挨拶をしていると、山狩りの開始の合図である狼煙のろしが上がる。


「どうやら勝手に始めたようだ」


俺は顔を歪め、舌打ちした。



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