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月に水まんじゅう  作者: はぎわら 歓


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12/41

12 内田和弘

『アンダーフロンティア』のメンバーでオフ会が行われる。星奈も勿論誘われたが、場所が横浜で夕方から夜にかけて行われるため、行くのはやめた。

片道三時間弱ではあるが出歩き慣れていないのと、恐らく男しか来ないだろうことも不参加の理由だ。

 月姫とミストに会ってみたい好奇心があったが、さほど強い感情でもない。後で月姫にどうだったか様子を聞いてみようと思うくらいだった。


 今日は授業の大根の桂剥きで、うっかり包丁を滑らし、指先を切ってしまった。大した傷でなく、すぐに絆創膏をはって作業をしたが、テープ一枚が指先の皮膚の感覚を奪い、瞬く間に桂剥きの精度は落ちてしまっていた。

一緒にグループ活動をしている、同期生の内田和弘が心配そうに覗き込んだ。

「大丈夫か?」

「うん。ちょっと切れただけ。すぐ血も止まってるから」

「そうか」

 和弘は浅黒い気の良さそうな笑顔で頷いた。

「帰りに、石丸亭寄ってかないか?」

「いいねー。あっ。今日、友達が京都から帰ってくるんだった」

「ああ。和菓子の?」

「そうそう。良かったらさ、一緒にごはんしない?一人だとコンビニ寄っちゃうでしょ?」


 和弘とは専門学校に入って仲良くなった。同じ県内だが、彼はこの学校まで一時間半かけて通っている。まだまだ二十歳の青年は育ち盛りで、帰宅まで何かしら買い食いをしてしまうのだ。

 駅が見えてくると、ちょうどこちらへ向かってくる小柄な美優が見えた。彼女も気づいたらしく手を振ってかけてきた。

「ほしなー」

「おかえりー」

 小柄な美優は、星奈よりも頭一つ分小さく、手に持った荷物はとても重そうに見えた。

和弘に気づき、美優は「カレシ?」と星奈に聞いた。

「違うよ。専門のともだち。ごはん仲間」

「そうなんだ。こんにちわ。新田美優です」

「は、はじめまして。内田和弘です」

 和弘は浅黒い肌を朱に染めている。そして「俺、もつよ」と美優のボストンバッグに手を差し出した。

「あ、ありがと」

 星奈は、ははーんと和弘の態度を見て感づいた。美優のことが気に入ったのだ。和弘は身長が百八十五センチあり、珍しく星奈と釣り合う身長だ。しかし友達以上の感情を持つことはお互いになかった。

気が合う異性はなかなかいないのに残念だな、と大きな和弘と小さな美優の並んだ影を見て思った。

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