逃走
私は出来るだけ速く、馬車を動かす。
この国の王女……レナリア様を護る為に。
馬達には悪いことをしているのは理解している。
だが、急がなければいけない。
「レナリア様、今から西門を抜けます。その後に私の部下が滞在している村に行き、身を潜めます。」
「……はい。」
今すぐ慰めの言葉を掛けたい、それは許されない。
本当に時間が無い。
無事に門を抜けられるか。
(くそっ…!嫌な想像は頭を鈍らせる!!)
馬に鞭を入れ、西門を目指して行く。
追手が来る前に、門を閉ざされる前に!!
「レナリア?…ふんっ、生かしておいた所でどうという事はない。それよりも、俺に逆らう者は生かしておくな、反乱を起こす為の力さえなければ、あんな小娘放っておけばいい。」
ガイアが兵士達にそう命令する。
「はっ!分かりました。」
兵士達が、そう言うと玉座から離れていく。
黒ずくめの男……アベルがアサシンと呼んだ者がガイアに近付く。
「おめでとうございます陛下。見事な手腕で。」
口元を緩め、厭らしい笑みを浮かべながら発せられた声は、猫なで声のような不快感を与えてくる。
「心にも無い事をほざくな。」
「これは、失礼。」
ガイアは何処かうっとしい様子でアサシンを睨む。
「貴様……いやっ、貴様らの力を借りたのは確かだ。その暁に貴様らの要望を聞く。謂わばこれは契約だ、それは理解している。」
アサシンは笑みを浮かべながら二度、首を縦に振る。
ゆっくりと後ろに下がりながら、初めから居なかったかのように姿を消していく。
その様子に舌打ちをし、玉座に不機嫌に座り続ける。
「まぁいい、俺には力がある。
こいつさえあれば何だって……そう……何だって出来るのさ。」
自分の両手を見つめながらそう呟く姿は禍々しい。
その場に人が居ればそう感じただろう彼は果たして、人間なのだろうか。
「よしっ!西門に着いた!」
私は一先ず息をつく。
周りには反乱兵は居ない。
ただただ不気味な位に静寂が広がる。
幾つか戦った後なのか、物が壊されていたりはしている。
(兵士の死体が無い……西門からは攻めては来ていないのは分かっていた。だけど…こうあっさりと着けたのは違和感がある。)
未だ予断は許されない状況。
だがそうも言ってられない。
「レナリア様!このまま村へ向かいます!もう少しの辛抱を!」
「はいっ…!」
正直に言えばレナリアの体力の消耗が激しく休ませたいが、今は急ぐ。
そう判断し、アニスは馬を走らせる。