逃げる、生きる為に
「急いで下さい!兵士が来る前に城の外に行かないと!」
「待って!!お父様とお母様がまだ!」
「御二人なら大丈夫です。それにお父様であるアデル王はこの国でも随一の剣の使い手、簡単には負けません。」
女性兵士に手を引かれながら走るのは、この国の王女レナリア・ハル・セーランド
突然の出来事だった。
幼少の頃から共に育ち、また護衛として自分に仕えているアニスが部屋の扉を開けた。
「内乱です王女様!王の弟であるガイアが、突然兵士を引き連れて城を攻めています!!」
「えっ……?アニス?」
その時のアニスは今まで見た事もない表情だった。
彼女のあんな切羽詰まった顔を見たのは初めてで、そして彼女の口から告げられた言葉が余りに衝撃で、一瞬頭が真っ白になった。
「とにかく急いで仕度を!!早く逃げなければここも危険です!」
「アニス!どういう事なの!?ガイア叔父様がそんなことするはずが」
「王女様!今はとにかく逃げる事に専念して下さい!!」
「アニス……分かったわ、直ぐに着替える。」
クローゼットから城下町へと行くお忍び用の服を取り出し着替える、その間にも城の中が慌ただしくなっているのが分かった。
人の走る音に、兵士達の大きな声、嫌でもわかる。
叔父のガイアが城を攻めているのを。
「アニス準備が出来たわ。」
「分かりました、では城の外に馬を用意しています。近くの街まで馬に乗って行きます。」
アニスがそう言いながら私の手を引っ張りながら移動する。
「待って、お父様とお母様は?」
「御二人なら後で、今は貴女様の命を優先せよと。」
アニスと共に部屋を出て走っていく。
途中、何度も兵士や召使いとすれ違う。
殺気立ち者、青ざめた顔をした者
さっきまで
さっきまでは平和だった。
何気ない昼下がりが、優しい日射しが、何時もと変わらない日常が……
突然、嘘のように消えて無くなった。
そんな気がしてならない。
「もうすぐです!裏口にレイン殿が待っています!」
「…!分かったわ!」
それから直ぐに裏口に着く。
そこで馬車を用意して待っていた鎧姿の騎士がこちらに向かってくる。
「レナリア様!ご無事で良かった!アニス殿も問題無いな!」
「レイン殿、待たせて申し訳ない。さぁ、レナリア様早く馬車へ!」
「はい!」
私が馬車に乗るとアニスは馬を操縦するための席に乗る。
「では、アニス殿。」
「レイン殿……御武運を」
そう言ってアニスが馬を走らせる。
「待ってアニス!レインが!」
「………申し訳ございません。」
「嫌!駄目!レイン……レイィィィン!!!」
私が馬車からレインの名を叫んでも馬車はどんどん城から離れていく。
最後に、レインが優しく何処か覚悟を決めた表情をしていた。
それだけが酷く記憶にこびりついた。