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緑の魔女  作者: 青紗
魔女と青年とハーブティーと
6/50

叶わない、儚い、願い

今回担当は透冴翡翠です。



お待たせしてしまってすみません。

リンの買い物に付き合った後、レイモンドは村へと戻った。

歩く途中に、何度もポケットに手を入れては出す。


さっき、リンがくれた飾り石。

どちらかと言うと、隣の国の貴族たちが使っている、ガラスのペーパーウェイトを思わせるものだった。

それは透明な水色で、自身の目の色を思い出させた。


取り出して、太陽に向けてかざすと、光が中で反乱射し、美しい輝きを見せる。


「自分の目とはかけ離れてるな。当たり前だけど」


どちらかというと、あいつの目に似てる。

そう思いながら、レイモンドは遠くを見るような目をし、石をポケットに戻した。











家に戻ると、椅子に身体を投げつけた。

肩を背もたれに掛け、後ろの方に首をだらん、とぶら下げる。

大きく息を吐き出すと、もう一度石を取り出した。


「今日のお礼、か」


あの時のリンの声を思い浮かべた。

いつもの軽やかな声色とは違う、何かの異物が混ざったような、不安を仰ぐ気配がした。

しかし彼女のことだ、問い詰めても断固として口を割らないだろう。

そう思い、あの時は言及しなかった。


最近のリンに何かが起こっている。

それだけは、彼に分かった。


「明日は来るな。今までなら、普通にその言葉を信じてたんだけどな」


レイモンドは顔をしかめ、指で摘んでいたリンからの贈り物をぎゅっと握った。


「今回ばかりは、演技を評価できないな、『緑の魔女』」















一方、リンは無事に自分の小屋へと帰ったばかりだった。

扉を閉じた途端、彼女は崩れるように床に膝をついた。


「はぁ、魔力がまだ完全に回復していませんね……」


息が浅く、意識も朦朧もうろうとしている。

額に手を当てると、少々熱があるようだった。


「あの薬草、どこに置いてましたっけ……」


リンは自分で薬を調合し、飲んだ後、ベッドに潜り込んだ。

全部自分でやるのはかなり苦しく、布団に入った途端、彼女は眠りについた。

















しばらくして、リンは目を覚ました。

ハッとし、身体を起こす。

何時かと、すぐ近くにある置時計に手を伸ばした。


「……ホッ。まだ時間じゃないですね」


家を見回して、何も変わっていないかを確認する。


「少しだけ休むつもりが、熟睡になってしまいました」


普段ならこのようなことは滅多に無いのに、と、リンは少々落ち込んだ。

気を取り直して、ベッドから降りた。


いつもレイモンドと一緒にティータイムを楽しんでいるテーブル。

その上には、村のお祭りで買った飾り石が置いてあった。

レイモンドに渡したものの色違いであった。


「間違えて自分用に選んだ色の方を渡してしまったんですよね……」


レイモンドが持っている水色の石は、本当はリンが自分用に買ったものだった。

しかし、今夜のことで頭が一杯で、間違えてしまったのだ。

リンが持っているのは、緑色の飾り石。

自分の目の色に、よく似た緑。


「それにしても、私が贈り物をするぐらい、一人の人間に好意を寄せるなんて……」


リンは自嘲気味に笑い、鎮座している石を指先でそっと撫でた。


昔の自分なら、決して起こらなかったことだろう。

そう思いながら。











「あらあら、気が早いですこと」


『魔女』というものは、大変耳が良い。

遠くから迫ってくる来客を捉えた。


「売られた喧嘩は、喜んでお返ししますわ」


今までレイモンドに見せたことの無い、昔の冷酷な仮面を付け、彼女は小屋を静かに去った。
















レイモンドはまだ、知る由など無かった。

大切な彼女に、魔の手が迫り寄っていることを。

そしてそれを加速させてしまうのが、自分であるということを。

―Tougo Hisui

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