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7、強盗

銀行の中には同じ新入生だと思われる学生が数人受付で手続きをしている様子が見える。

「あそこで学生証がもらえるのか」

数ヶ所ある受付のカウンターを学生が独占するわけにもいかないので順番待ちが必要そうだ。

しばらくし、数人の学生が手続きを終わり受付から離れて行く。

「お待たせしました。ご用件は何ですか」

受付の前まで行くと恭しくお辞儀をされる。

「学生証の発行をお願いします」

用件を言いながら学園でもらった書類を渡す。

「はい。空蝉学園、塞蓮路一眞様の学生証ですね」

書類の内容に目を向けながら確認を取る。

「よろしくお願いします」

「では、少々お待ちください」

問題無く学生証の発行はスムーズに済んだ。

「発行まで時間が掛かるので座ってお待ちください。出来ましたらお声を掛けさせて頂きます」

一般客に邪魔にならない様に隅の椅子に腰かけようとする…。

ドンッっっ‼︎

発砲音。

ヘルメットを被った男3人組が拳銃を携えて立っていた。

それを確認し客たちは騒ぎ始めるが一番前にいるリーダー格の男の一言で沈黙する。

「全員騒ぐな‼︎騒いだ奴から殺していくぞ⁉︎」

辺りが沈黙し動こうとするものがいなくなると、男は両脇の2人と何かを話し2人を入り口付近で待機させる。

「ここの経営者は誰だ‼︎」

男はカウンターの奥の従業員に拳銃を突きつけながら大声を張り上げる。

「十秒以内に出てこい、さもないと1人従業員の人数が減るぞ」

「ヒィ」

近くにいた従業員の顔に銃口が向けられ撃鉄が上がる。

「わ、私が、ここの経営者です」

少し小太りの男が慌てて名乗り出る。

「ここに書いてあるのもを渡せ」

懐から取り出した紙を小太りの男に見せる。

と、小太りの男が目を見張るのが分かった。

何を見せられた?

小太りの男の反応が気になり目立たない様に観察する。

「分かった。だから、一般人に手を出さないでくれ」

一般?なんだか含みのある言い方だな。この場合は一般人ではなく普通はお客や従業員と言うのでは?

「いいだろう、下手な真似はするなよ」

従業員へ向けていた拳銃を小太りの男に向けて目的の物へと先導させる。

バックを一つだけ持ち小太りの男についていく男に違和感を持つ、金目的ではないのか…?銀行には機密文書などもあるが、わざわざ、大事にしてまで盗む物では無い。そう言う物は、盗み取る物だ。

男が通路に入る時に丁度機械から名刺ほどの大きさのカードが出て来る。

「ん、これは…」

それを見た男の目が一瞬淡く光った様な気がした。

男はさりげなくカードを胸ポケットに押し込む、其の瞬間受け付けをしていた女性が「あっ」と声を漏らした。

其の声は聞こえなかったらしい男は小太りの男と一緒に通路の奥へ消えて行った。

しばらくし、鞄を持って出て来た男は小太りの男に前を歩かせ仲間と合流する。

「目的の物は手に入っか」

「ああ、このとうり」

「なら、早くずらかるぞ」

外の様子を伺っていた1人が少し焦った様に促す。

「其の前に…ふっ‼︎」

ドスッ。

「こいつを人質にする、連れてけ」

男は小太りの男を気絶させ人質として運ばせた。

「社長!」

「おっと、動くなよ。俺たちが逃げ切るまでは人質として殺さないでおく。下手に警察に連絡してみろ命は無いからな」

咄嗟に近づこうとした従業員に拳銃を向け、そう言い放つと入口から出て行った。

周りの緊張の糸が切れ騒ぎ始める客や慌てて出て行く客が出始めた。

従業員も客の対応に追われることで、混乱することはなかったのは幸いか。

面倒ごとはごめんな為、客に混じり自分の用事を済ませることにする。

「すいません、学生証もらいたいのですが」

学生証の発行に対応してくれた受付の女性に声をかける。

「え」

あんなことが起こったにもかかわらず自分の用事を済ませようとする俺に驚きの表情を浮かべた後すぐに顔を青くする。

「申し訳ございません!」

勢い良く頭を下げ始める女性に今度はこちらが驚く番だった。

「あの、頭を上げてください」

何が起こったのか分からず、まず頭を上げる様に言うが下げたまま頭を振った。

「いえ、こちらの責任です、謝って済むものではないのは分かっています!ですが、私にはこれくらいしか…」

「落ち着いてください。なんで謝られているか分からないんで、頭を上げて説明してもらえませんか」

幸いにも辺りの客が騒いでいた為、この出来事には気付いてない様だった。

何故か個室に案内されやっと説明をしてくれる。

どうやら、強盗が盗んで行った中に俺の学生証も含まれていたらしい。

「あれは、特殊な物で再発行することは出来ません。カードを発行する時にデータをコピーするのでは無く、使うもので機械にもうデータも残ってませんなので再発行は…」

どんどん顔が青ざめて行き、終いには途中で声が途切れる。

思考も混乱している様で言ってることがループしていた。

「わ、私の所為とかでここ潰れたりとかしないよね…」

さっきまでは、客に対する丁寧な対応で敬語を使っていたが、繕う余裕が無いほど取り乱している見たいだ。

たかだか、学生証が紛失しただけではそんなことは起こり得ないのが普通だろう。ただし、金持ちの跡継ぎや血縁者が通う学園として噂されている空蝉学園はそんな勘違いを起こしても仕方ないだろう。

強ち間違ってもいない。

実際あんな広大な敷地を使った学園などはそうそうない。

それに、其の方が都合が良い為あえて放置している学園側の思惑もあり余計に噂は深化して行った。

勘違いも甚だしいが、今は都合が良い為放置する。

「まだ、就職して2年しか経ってないのに…20歳前半で職失うなんて…どうやって生活して行ったら…」

頭を抱えながら何かをつぶやいている女性に声を掛け辛いが、あえてそんな空気を無視して声をかける。

「1つこちらの願いを聞いていただければ、今回のことは俺がどうにかします…どうしますか?」

混乱している人間に下手に遠回しな言い方をしても意味が無い、年上に失礼な言い方になったがそんなことは横に置いとこう。

「…ほ、本当?」

「はい、その代わりこちらのお願いを聞いていただければ」

普通の学生が言えば何を言っていると鼻で笑われたかもしれないが、噂の金持ちもしくは御曹子の言っていることになるためそんなことはなかった。

「お願いと言うのは…」

「今度ここの利用をする時に贔屓にしてください」

「それは…」

贔屓という言葉にどんな無茶ぶりをされるのか不安そうにつぶやくので、言い直す。

「あ、営業サービスの範囲内で構いません」

「それなら、大丈夫だけど」

「では、そう言うことでお願いします」

かなり無理やりに話をまとめて、相手の混乱が収まらないうちに部屋を出る。

「これで、学生証のことが口外される心配は少なくなったかな」

何かを約束することで言い辛くさせ、言い出すのを遅くする。人間性がまともな人なら効くはずなんだけど。

「機械じゃ無いから思いどうりにも行かないか。時間も無いし急ごう」

いつでも、イレギュラーは人間だ、何を起こすか分からない。

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