1,入学式
「新入生の皆さんご入学おめでとうございます」
壇上に出てきた女生徒は新しくこの学園に入学してきた生徒の顔を一人一人確かめるように見渡した。
「私は山名部華耶この空蝉学園の生徒会長をしています」
壇上の生徒会長が自己紹介をするとその場にいた生徒ほぼ全員が騒ぎ始めた。
ほぼというのは例外もいるからだ。
「皆何を騒いでいるんですか」
隣で黒に近い茶色の髪を肩口まで伸ばし、学園の制服に身を包んだ箱入り娘が首を傾げているからだ。
「山名部華耶。確か政府からSランク認定された実力の持ち主だな」
いくら箱入り娘だとしてもランクについては知っている。
ランクとは政府にその実力が認められると与えられるもので下からF.E.D.C.B.A.AA.R.Sとなる。特にAAやRやSは実力だけでなく指揮能力、戦闘能力、人柄を認められかなりの権力を与えられるので普通は学生が貰えるものではない。
「そんなすごい人がなんで学園なんかにいるんですかね」
確かにSランクという実力を持っているなら組織を作るなり家業を継ぐなりした方が利益になるはずだ、それをわざわざ行動が制限される学園にいる理由もわからない。
「初めてランク付けされた俺たちには考えもつかない事かもしれないな」
「静粛に」
しばらくホールの中はざわついていたが生徒会長の一声で収まった。
生徒会長をしているだけあってまとめる事になれているようだった。
「今から、この学園で生活していくにあったて必要なものがあります。まずそれを支給しますので名前を呼ばれた人から壇上に出て来てください」
生徒会長が言い終わると横で待機していた生徒が順番に名前を読み上げた。
しばらくして過半数が名前を呼ばれ支給品を貰っていった。
「まだ名前が呼ばれませんね」
名前を呼ばれるのを待っていた紗弥は少し緊張しているようだった。
「早くても遅くても変わらないんだ、少し落ち着いたらどうだ」
「そうですけど、兄さんは気にならないのですか」
「気にならない。と言ったら嘘になるな」
「今だけは、お気楽な性格の兄さんが羨ましいです」
「失礼な、冷静なだけだぞ」
「こんな時に平気でそんな事を言うからです、それに何年兄さんと一緒にいると思っているんですか兄さんのことは一番わかってます」
流石に長いあいだ一緒にいてそこまで言い切られると悲しいものがある。
紗弥にはそんな風に見えていたのか、今度から気を付けよう。
「塞蓮 路紗弥」
さっきまでの会話でだいぶ緊張がほぐれてきた頃に丁度名前を呼ばれた。
「行ってきます」
そう一言残して沙耶はステージに向かった。
しばらくすると、少し大きめのポーチを抱え戻ってきた。
「何を渡されたんだ」
「わかりません、まだ中身を見てはダメだそうです」
普通よりも一回り大き目のポーチで、固定し易いように少し多めに止め金具がついていた。
「塞蓮路 一眞」
「兄さん、呼ばれています」
ポーチに興味を示している内に順番が回ってきたようだ。
「行ってくる」
「はい」
紗弥と軽く言葉を交わして前へ出た。
「はい、これが支給物よ。中の確認は後でするからまだ見ないでね」
中は気になるがまだ見るなと念を押された以上覗くわけには行かない。
名前が呼ばれてから十数人が前に出て行ったころようやく入学生全員に支給品が配られた。
「それでは、ポーチの中身を確認していきたいと思います」
指示されたとおりにポーチの中身を出していく。
入っていたものは任務に使う霊符や筆、小型の医療具だ。
「なんだこれ」
最後の取り出した物は、何も書いてない紙だった。
似たような物ならあったが、それは長方形の形をしていて見た感じ札の予備だろう。
不思議に思っていると説明が始まった。
「最後の取り出した何も書いてない紙は、クラス分けと部屋分けを決める紙になります」
そう言われた瞬間、辺りの空気が張り詰めた。
一字一句聞き逃さないようにすべての感覚を研ぎ澄ませているようだった。
「これから行ってもらう事は、今出した紙に自分の霊力を流し込んでもらいます。そうすることで紙に色と数字が浮かび上がってきますので、あとは出口で待機している役員に渡してください。部屋番号とクラスの書類を貰い部屋で待機していてもらい、そのあとは先輩の指示に従ってもらいます」
説明が終了し質問があるか呼びかけたが手を挙げる者はいなかった。
「それでは、始めてください」
開始の合図が出されたが誰も始める様子はなかった。
どうせ後からやっても変わらないんだ、早めに済ませた方がよさそうだな。
「確か霊力を流し込むだけでいいんだよな」
あまりやり過ぎないように全力とはいかないが強めの霊力を流し込む。
「でたでた、数字の1と色が・・・。変わってない」
色が変わるはずなのに白い紙はそのままだ。
「壊れたか?いや、流石にあり得ないだろ」
色の変化の無い紙を見つめて考え込んでいると隣から服を引っ張られる感覚がし思考を中断した。
「兄さん、紙の色が変わらないのですがこれで大丈夫ですか」
霊力を流し終えた1とだけ書かれた紙が目の前に出された。
どうやら紗弥も同じ状況みたいで壊れたわけでは無いらしい。
「多分な、このまま出して問題があれば何か言われるだろ」
霊力を流し込んだ紙を出口の役員に渡すために移動した。
「紙を見せてください」
出口の前まで行くと役員と思われる生徒に声をかけられた。
「はい」
言われたとおり紗弥が紙を渡したのに続き同じ役員に紙を渡した。
「おい、これ」
紙を渡した役員の生徒は他の役員と会話をし、すぐにどこかへと言ってしまった。
「やっぱりなにか問題があったのでしょうか」
その声を聞いていた紗弥は少し心配になってきたのか不安げに呟いていた。
「大丈夫だろ、お前は特別だからな」
安心させようと紗弥の頭に手を置き軽く撫でた。
「それを言うなら兄さんだって・・・」
「遅くなりました。これが部屋の番号とクラスです」
何かを言おうとしていた紗弥の言葉を遮る形になってしまったが役員は気付かず書類を渡した。
「今は、書類に書いてある部屋で待機していてください」
念を押し、急いで持ち場に戻っていった。
いつの間にか紙を手にした生徒が列を作っていた。
多方、出入り口に向かう様子を見てあとに続いたのだろう。
「ここも時期に混んできそうだ、部屋に移ったほうがよさそうだな」
「そうですね。兄さんの部屋番号は何番ですか」
「108だな。紗弥は何番だ」
「・・・107です」
部屋の番号が違うことに不安を覚えたのか少し俯きがちに返した。
紙の反応が同じだったために期待したのかもしれない。
「部屋も近いんだし、何かあったら頼ってくれてもいいからな」
「はい」