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異能使いと狐憑き 1

ホラーっていうより現代怪奇ファンタジーって感じのを書きたい。

あれは一年前のこと。

ようやく実家から独立しオカルト専門の探偵として活動を始めた頃の話だ。

小さな依頼をこなしつつ日々堅実に生きていた私の元に一通の手紙が送られてきた。


『助けてください。

母と姉が何か良くないモノに憑かれてしまいました。原因はわかりません。

父や親戚たちは内々で処理するつもりらしいですが僕には彼らにどうにかできるとは思えないのです。

僕の方でも動いてはいますが何分力が足りません。

ですからお願いします。助けてください。


住所は――――――』



私はこの依頼を受けることにした。

知名度があまりないこともあり仕事は選んでいられなかったし、何より独立してから初めての大仕事だったので断る理由などなかったのだ。


そして現在私は今、都会から離れた場所にある村を訪ねていた。

その村にあるという依頼人の家に向かいながら手紙の差出人の名前を眺めていた。

『朝桐つきひ』

手紙の差出人の名前の欄にはそう書かれている。


「朝桐ねぇ……」


朝桐。

それはこっちの業界ではよくも悪くも有名な家だ。

一昔前は優秀な退魔師の一族として。

そして今は栄華に溺れ衰退した一族として。


ここまで大仕事に喜び勇んで来たがよくよく考えればこの依頼には不振な点が多い。

朝桐家の能力の衰退は誰もが知るところだが依然として彼らのプライドは高いまま。

それゆえに自分の実家を含めたほとんどの家が「付き合いは持ちたくない」とはっきり言うほどだ。

そんなプライドの高い連中がほかの家に助けを求めるとは思えない。しかし手紙の差出人は内密に手紙を出しているようだし、そのあたり完全に否定もできない。

そしてなによりの疑問は―――


「『つきひ』なんて名前の人、あの一族にいたっけ?」


一応有力な家の霊能者の名前は覚えているのだがつきひという名前には覚えがない。自分の記憶違いかそれとも霊能者ではないのか?

まあいい。その辺の疑問はもうすぐ解消されるはずだ。

視線の先には目的地の朝桐家の屋敷が見えてきていた。



朝桐家は今でこそ衰退しているがかつては有数の力を持った実力者を排出し、繁栄してきた家でもある。

自分の実家にも劣らぬ規模を誇る屋敷は未だその頃の名残を残しているように見えた。


そんな家の前に着いたのだが出迎えはなかった。まあ当然だろう。あくまでこれは内密な依頼。出迎えられるほうがおかしい。

だがどこで待てとも指定されていないのでどうすることもできず門の前で待っているのだが大丈夫だろうか?

そう考えていると不意に横から声をかけられた。


「天羽梓様ですね?」


「え、あ、ええ。 そうです」


突然声を掛けられ驚いた。

横を見ればこの家の女中らしき人が立っている。すぐそこまで近付いてきたのに気づくことができなかった。


「つきひ様より天羽様の案内を仰せ付けられました日凪と申します。 以後お見知りおきを」


日凪と名乗った穏やかそうな女性はそう言うと静かに頭を下げた。


「あ、はい。 よろしく……」


緊張していたからだろうか、少しどもってしまった。

私の様子を見て日凪は身に纏う雰囲気と同じ穏やかな笑みを浮かべる。


「つきひ様の元に案内いたします。 こちらへどうぞ」



正面の門から入れば確実に見つかってしまうとのことで私は日凪の案内で裏口から屋敷に入ることになった。

日凪は母屋には入らず裏庭を突っ切り、離れに向かう。私は母屋にいる人間に見つからないように生け垣や庭の草木に隠れながらその後を追った。

何気なく母屋に視線を向けると母屋で動き回る人たちが視界に入った。

おそらくは朝桐家の親族であろう人物は礼服に身を包み、だらしなさなど感じられない動きで歩き回っている。

そこで働いている使用人達の動きにも無駄がなくきびきび動いているというより機械的に動いていると言ったほうが正しい。

いずれにせよ誰も彼も余裕を感じられない。


「……ずいぶんと厳格なのね」


「見栄というものがございますので。 当主様はそこを重視しておられます。 当主様は異能を使うことができませんが己の部下を完璧に動かすことで自らが当主として相応しいと示されているのです」


それはなんとも変な話だ。異能使いの家出身の私は

もしこの家が異能とはなんの関係もない家であったならばそれで問題はなかっただろう。

だがこの家は、朝桐家は異能使いの家系。異能を使う家の当主になるならばに部下を使いこなすのは当然のことだしいざとなれば一族を護るために自ら戦いに行かなければならない。

当主となる人間は一族の中で最も強くなければならないのだ。一族を護るために。血を絶やさぬために。

どれだけ部下の使い方が上手かろうと自身が戦えないのなら意味がないのだ。


何となくだが朝桐家はが衰退した理由がわかった気がした。当主に相応しくない人間が当主の座に着いているのだから当然だろう。

事実目の前にいる日凪という女性からは当主に対する敬意が微塵も感じられなかった。

彼女のような人間にさえ敬意を抱かれない現当主とはどのような人物なのだろうか?

少し気になった。


距離にしておよそ100メートル。草木に隠れ進み続け(昔やった潜入ゲームを思い出した)ようやく離れに入ると日凪はもう大丈夫だと言った。

隠れる必要が

彼女が離れと言ったこの建物は確かに母屋には及ばないもののそれでも十分名家といえるだけの広さの敷地を持っていた。


この離れで働いている者は皆、つきひに従うと決めた者しかいないらしい。

つきひという人間の人柄なのか離れの使用人達は皆、母屋の者達とは違い常に忙しなく動くことはなくそれぞれ自分のペースで動いていた。

そのためか離れに母屋のように張りつめた空気はなく、どこか柔らかで居心地のよい空気に包まれている。

そんな空気につい気が緩みそうになる。


―――その気配に気づいたのは偶然だった。


何かの気配と視線を感じて立ち止まり視線を向ける。だがなにもいない。気のせいだろうか?

いや違う。私は気づいた。気配は移動している(・・・・・・・・・)。

小さくすばしっこい何かが駆け回っているのだ。


「アレ(・・)は天羽様を害したりはしませんよ」


突然そんなことを言われ心臓が跳ね上がった。見れば日凪が立ち止まりこちらを見ていた。


「私には異能というものがどういうモノなのか詳しくは知りません。 ですがこの家で異能を使えるのはつきひ様だけだと聞いております。 ですからご安心ください」


そう言って微笑むと日凪は歩みを再開した。

その様子に奇妙な感覚を感じながら私はその後を追うのだった。


そんな屋敷の一番奥。そこが朝桐つきひの部屋のようだった。

その部屋の前で私が朝桐つきひとはどのような人間なのかと考えを巡らせる横で日凪は部屋の中に向かって声を掛けた。


「つきひ様、天羽様をお連れしました」


「入って」


部屋の中から短く簡素な返答が返ってきた。

それを受けた日凪が襖を開け私を中に招いた。そして私が中に入ると日凪は下がってしまった。

部屋の中はほとんど物がなかった。最低限のものしかなく娯楽品などは一切ない。

そんな部屋にいたのは想像していたのよりもずっと若い―――おそらく中学生ぐらいだろ―――まだ男の子と言っていいだろう年頃の少年だった。


「天羽梓さん、来てくれたこと、感謝します」


少年はそう言って頭を下げた。


「ええと、君が……?」


「うん、朝桐つきひ」


朝桐つきひ。

彼が私をここに呼んだ張本人。

物切りにされたようなしゃべり方を聞きながら私は彼を観察した。

つきひという少年はここに来るまでに見かけた親族達の厳格そうな服装とは対照的に着流しを身に着ている。身に纏う雰囲気も親族である者達よりも日凪のものに近い。そして彼からは私と同じく異能の力が感じられた。

こほん、とひとつ咳払いをする。


「天羽梓よ。 依頼を送ってきたのはあなたで間違いないわよね?」


「うん。 今回のこと、異能使い、いなくちゃ厳しかった」


「でもあなたも異能使いなのよね? なら私を呼ぶ必要なんてなかったんじゃない?」


私の言葉につきひは静かに首を振った。


「僕、異能ほとんど知らない。 だから使える人必要だった」


なるほど。筋は通っているし嘘を言っているようにも見えない。彼の言葉は真実なのだろう。

だがひとつ疑問があった。


「なんで私を選んだの? いえ、こう言うべきね。 なんで私を選べたの(・・・・・・・・・・・)?

私は最近独立したばかり。 知名度なんて無いに等しいのよ?」


軟禁されているのならば私のことなど知る機会などことができないはずだ。

ソレと同時に私はおそらくその答えに近いものを頭に思い浮かべていた。この部屋に来るまでに感じたあの気配。アレが関係あるのではないだろうか。


「簡単なこと、探してもらった」


「……誰に?」


「この子達」


どこか得意気につきひは懐から竹筒を出した。

一見なんの変鉄もないただの竹筒にみえる。事実普通の人が見ればただの竹筒にしか見えないだろう。

だが私の異能使いとしての勘はその筒のなかに何かがいると訴えていた。

そんな私をよそにつきひは竹筒の蓋を開けソレの名前を呼んだ。


「初雪」


彼は竹筒の蓋を開いた。その瞬間竹筒から何かが飛び出してきた。


管からするりと姿を現したのは狐だった。

ただの狐ではない。普通の狐に比べて遥かに小さくそしてやけに細い身体。

そして真っ先に目を引くのは真っ赤な目と真っ白な毛皮だった。


「管狐? それにこの子……」


「そう、アルビノ」


こちらの世界ではアルビノは特殊な意味を持つ。

アルビノの個体は幼い頃は身体が弱いため死にやすいがその代わり成長すると普通よりも強い力を持つことが多い。

真っ白な管狐はじゃれるようにつきひに身体をこすりつけるのを見ながら私は溜息を吐いた。


「まさか朝桐が狐憑きの家系だったなんてね。 そりゃほかの家と関わろうとしないはずよね」


狐憑きというものは世間一般的には忌むべきものである。

ほかの家から財を奪い栄える家。あげくその後の滅亡まで確定しているとなれば忌むべきものとされるのは当然だ。

異能使いとしても同じようなものだ。力あるものが使えばきちんと制御できるがそうでなければ家を滅ぼす。

あっさりと明かされた朝桐家の秘密に少し頭を抱えた。


「本題」


その言葉に私は姿勢を正した。


「これから母様達、探る。 天羽さん、霊視お願い」


「それはいいけど二人はどこにいるの」


「母様と姉様、母屋いる。 でも父様見張ってて正面からいけない」


つきひの父親はこのことを外に漏らす気はないと思われた。

完璧を求めるのなら己の妻と娘がおかしくなったという事実は汚点でしかない。なにがあっても隠し通す気だろう。


「じゃあどうするのよ? なにか案はあるの?」


「初雪、行って」


つきひが一声かけると管狐はするすると柱を登りどこかにいってしまった。


「なにをする気?」


「初雪の目、借りる。 手を出して」


言われた通りに手を出すとその手を握られた。頭の片隅でつきひの手は細く肉がほとんどついていないんだな、と思った。

つきひが異能を使う。すると目の前の光景が別のものに切り替わった。

その視界は天井の梁をつたい移動している。これはおそらくあの初雪という名の管狐の視界だ。


「これ“遠見”よね……ほかの生き物の視界とリンクさせるなんて使い方初めて見た」


“遠見”はその名のとおり遠くの場所を見るための異能だ。誰でも使える異能としては非常に便利なものなのだが力の消費が激しいというデメリットがある。

だがつきひがやった遠見は生き物の視界を媒介にしているためか消費が少ない。つきひはこうやって外の情報を得ていたのだろう。

そうしているうちに管狐はある部屋を覗きこんだ。

部屋の中には縄で縛られた女性が二人いた。

その様子は明らかにおかしい。うなり声を上げ暴れる姿はまるで飢えた獣のようだ。


「霊視、できる?」


「やってみるわ」


目に力を込める。こうすることにより普通は見えないものが見えやすくなるのだ。

私はその目で二人の女性を見た。


「母様と姉様、何が憑いているか、わかる?」


「少し待って」


管狐の視界を通しての遠見など初めてだし遠見をしながら霊視をするのも初めてだ。

さすがに少しやりづらいが問題はない。さらに力を込め霊視を続ける。

するとおぼろげながら憑いてるものが見えてきた。


「見えた」


獣のようにうなり声を上げる二人の女性の背後。そこに首だけの犬が見えた。

その首だけの犬は絶えずよだれを流し続けとても飢えているように見える。これが憑いているモノの正体だと私は確信した。

だが同時に疑問を覚える。


「なんで犬神が……?」


おかしい。朝桐の家は狐憑きのはずだ。なのに何故彼女達に犬神が憑いているのか。

つきひを見れば彼も驚いた顔をしている。まさか犬神が憑いているとは思ってもいなかったのだろう。

つきひは溜息を吐くと遠見を解除した。


「正体、わかった。 でも今、行動できない」


「そうね。 何とかしないと……」


「たぶん時間掛かる。 部屋用意するから休んでて」


それだけ言うとつきひは管狐を戻した。

それと同時に日凪が来て私を部屋に案内してくれた。どこに行ったのかと思ったらどうやら今まで部屋の用意をしていたらしい

案内された部屋で腰を下ろし一息つく。

目標は手の届かぬところにありこちらは自由に動けない。この依頼は思ったよりも厄介そうだ。

そんなことを考えながら精神を集中するために目を閉じる。今は期を待つときだった。

たぶんこの話は三話ぐらいで終わる・・・といいなあ。

あと本編で説明し切れなかった専門用語的なのの解説とか入れたほうがいいかな?


サンプル的なもの。


『異能使い』

いわゆる霊能力者のこと。

霊能力者との違い、また最大の特徴として『異能』と呼ばれる力を使うことが出来る。


『異能』

科学では説明できない謎の力。

この世ならざるモノを見たり、物を浮かせたり、炎を出したり。そういう不思議な力をまとめて『異能』と呼ぶ。

なお、異能には二種類あり異能使いなら誰でも使えるものと特別な家系の人間にしか使えないものがある。

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