第8話 葛藤で頑張ります!!
光が収まり、虚無の森に戻ってきた。
「やれやれ、全くあの女神は……ってあれ?」
腰にかかる重さに違和感を覚える。こんなに重くなかったはず。
腰を見てみると、ベルトに長剣が刺さっていた。これかま女神が言うプレゼントだろう。
「えーと、詮索」
魔剣サース
三魔剣の一つ。冥土の女神の加護がかかっている。
持っていると、素早さが2倍になる。
またチートな武器だ。
強くなりすぎたら駄目といってたのは女神だったはずだが?
っていうか、あの女神は冥土の女神だったのか。まあ、だからこそオレの転生をしたのかもしれないが。
まあ、こんなこと考えていても意味がない。
ギルドに戻ることにしたオレは、試しに走ってみた。すると……
「うわっ」
いっきに50メートルほど進んでしまった。恐るべき能力だ。
少しセーブしながら、ギルドへと走っていく。
その風圧により吹き飛ばされて絶命したスライムが多かったことから、オレは虚無の森のスライムの間で恐れられるようになったのだが、それをオレが知る由もない。
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「はい、無事に昇級試験完了ですね。あなたは今日からBランクです。おめでとうございます」
Bランクか。両親と同じランクだな。それにしても登録2日目でここまで行けるなんて思ってもいなかった。
「それにしても、その年で凄いですね、セルさん。5歳でBランクなんて、聞いたこと無いですよ」
「ありがとうございます」
そう、本当にあり得ない。というか、5歳児にこんなに普通に接している受付嬢がすごいと思う。
「お名前を聞いても?」
「はい、リュカ・スバルと申します」
リュカ、か。
「覚えておきます。また明日来ます」
「分かりました。お待ちしております」
さてと、家に戻るか。
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「ただいま」
家のドアを開ける。
すると、ドタドタと音がして、ルーが降りてくる。
「お帰り~~」
「お帰り」
ルーが声をかけてくる。
また、奥から父親が来る。
「訓練は?」
「終わったよ~」
間の抜けた声でルーが答える。
「で、父さん的にどう?ルーはどれくらい強い?」
父親は少し考えてから、
「Cランク位になったかな」
と答える。
「いいじゃん。頑張れよ、ルー」
「うん!!早く強くなって依頼受けたいしね」
会話だけを聞いたら勘違いするかも知れないが、オレのほうが年下だぞ。
「で、セルはどうだったんだ?依頼、成功したのか?」
「楽勝でした」
「まあ、最初のうちはそうだろうな。これからも頑張れよ」
父親の、激励に頷いて答える。まあ、父親はオレがBランクであることを知らないのだが。
「じゃあ、手を洗ってこい。直ぐに夕食だ」
「はい」
父親に促され、洗面所に向かう。
洗面所で手を洗い、うがいをした後、リビングに向かう。
リビングのテーブルの周りには、もう父親とルーの姿があった。
椅子に座って数秒すると、母親が何個かのパンとスープを持ってやってくる。
この世界では、パンが主食だ。しかし、かなり不味く、普通はスープにつけて食べる。
「よし、じゃあ食べようか」
父親の言葉で、皆が一斉に食べ始める。
オレは心の中で、いただきますと呟いてから食べ始める。異世界と言えど、日本の精神は忘れたくないものだ。それを家族に強制させるのもどうかと思うので心の中だけだが。
「うんっやっぱり母さんの料理は美味しいね!!」
ルーが、そう声をあげる。
確かに、母親の料理はこの世界のものの中では異常に美味しい部類に入った。
また、ルーはオレの両親を父さん、母さんとよんでいる。というか、呼ばせている。
「ありがとう」
母親がお礼を言う。
「当たり前だ。なんたって、私の妻だからな」
「まあ、あなたったら」
オレの両親は超仲が良い。新婚かっ!!と思えるくらいである。
まあ、良いことなのだが。
そうこうしている内に、食べ終わった。皿を片付けて、寝室に向かう。
オレと父さんの寝室は2階に、ルーと母親の寝室は1階にある。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
階段の所でルーと挨拶を交わして、階段を上がっていく。
ベッドに潜り込み、目をつぶる。
平和だな、と思う。このまま家族皆で居たいと。
しかし、オレは異世界人である。
それをオレは家族に隠している。
それを隠すことは簡単だ。しかし、それを内心に閉まったままでいたら、オレがつぶれてしまいそうな気がする。
一番良いのは、オレが元の世界に帰ることだ。しかし、それは出来るのだろうか。
それに、オレは本当に帰りたいのか。
ここは、幸せな場所だ。
家族にも仲間にも恵まれている。それでも戻りたいのか。
あの過去が残る、あの世界へ……。