林高校応援同好会
澄んだ空気に朝の光がまぶしく輝く。
林高校では応援同好会の朝練が始まろうとしていた。
「全員整列ー!!」
「押忍!!」
応援同好会の生徒たちが一列に並ぶ。
1分の隙もない整列に、日頃の訓練がうかがえた。
整列している団員達の前にいる竹刀を持った男が、気合の入った声をあげた。
「番号ー!!」
「い!!」
「ろ!!」
「は!!」
「に!!」
「ほ!!」
「よーし、人の話を聞いてない貴様らはグラウンド100周!!」
「押忍!!」
朝の太陽の鋭い光が、夜の残滓を切り裂いていく。
いい朝だった。
林高校では応援同好会の生徒たちが微動だにせず一列に並んでいた。
竹刀を持った男がそれを地面に叩きつけながら気合の入った声をあげる。
「グラウンド100周に行かないとはいい度胸だ……そこのおまえ!!」
「押忍!!」
「なぜグラウンド100周にいかないのか、簡潔に10文字以内で答えろ!!」
「押忍!! 拝啓、ご機嫌はいかがでしょうか。私は今学校で応援の練習をしています。とてもつらく苦しいですが、人を応援する事のやりがいと、厳しいけど思いやりのある先輩に恵まれて、とても充実しています。そちらではどうですか? 人生の目標は見つかったでしょうか。あせらずとも必ずやりたいことが」
「よーし感動した! おまえ死ね!!」
「押忍!!」
竹刀を持った男がそれを振り上げながら気合の入った声をあげる。
「貴様らは気合が足りん! 番号ー!!」
「ワン!!」
「ツー!!」
「スリー!!」
「フォー!!」
「ファイブ!!」
「よーし、国際色豊かな貴様らは腕立て伏せ200回だ!はじめ!!」
「押忍!!」
朝の風は何よりも透き通っていた。
とても、いい朝だ。
林高校では応援同好会の生徒たちが石像のように一列に並んでいた。
竹刀を持った男がそれを地面に乱打しながら気合の入った声をあげる。
「グラウンド100周に続いて腕立て伏せもか! そこの貴様!!」
「押忍!!」
「なぜ腕立て伏せをしないのか、簡潔に、手短に、5文字以内で答えろ!!」
「押忍!! 我々人類はなぜこうも争いつづけるのか。宇宙船地球号の乗組員として、もっとお互いを理解すべきではないのか。しかし、ここで大事なのは理解する事ではなく、理解しようとするその姿勢であって、そもそも」
「よーし感動した! おまえも死ね!!」
「押忍!!」
竹刀を持った男が腹の底から気合の入った声をあげた。
「気合が足りんー!! 番号ー!!」
「むかし!!」
「むかし!!」
「浦島は!!」
「助けた!!」
「亀に!!」
「よーし、突然のアドリブにも息がぴったりの貴様らは腹筋300回!! はじめえ!!」
「押忍!!」
小鳥の声が透き通った空気の中で響き渡る。
朝はやはりいい。
林高校では応援同好会の生徒たちがどうしようもないくらい一列に並んでいた。
竹刀を持った男が地団駄をふみながら気合の入った声をあげる。
「貴様らああ!! ここまで無視するとはいい度胸だ!! そこの貴様!!」
「押忍!!」
「何もしない理由を、簡潔に、手短に、正確に、正直に、3文字以内で答えろ!!!」
「嫌」
「よーし感動した!! おまえ真っ先に死ね!!!」
「押忍!!」
朝の学校に予鈴の音が響き渡る。
林高校応援同好会の朝練も終わろうとしていた。
「よーし! 今日の朝練はここまで!!」
「押忍!! 団長代理代行補佐見習い殿! 質問があります!」
「何だ!!」
「団長の姿が見当たりませんが、どうされたのでしょうか!!」
「うむ、団長は今朝寝坊してあわててパンをくわえて飛び出したら曲がり角で人にぶつかってそのショックでその人と中身が入れ替わってそれでその人というのが某国の王子様でその王子様はその国の大臣に命を狙われていておまけにその大臣はクーデターも計画しているらしくて元に戻るにもこの状況を何とかしないといけないから某国に行って来るけど明日には戻ると先ほど連絡があった」
「押忍!! わかりました!!」
「それでは解散!!」
「押忍!!」
朝はどこかに流れ去り、今日という日が動き出す。
とてもいい日になりそうだった。