桃色いちご
「じゃ、行ってくるね。8時には帰るから」
「あなた、今日の晩御飯は何がいい?」
「何でもいいよ。夏樹は?」
「あたしはオムライスぅ〜」
「うげっ…また難しいものを…」
「え〜っ。いいじゃん!卵ぐらいキレイに巻いてねママ」
俺は愛する家族の微笑ましいやりとりを見て、家を出た。
「おはよう」
会社に着くと、同僚の佐藤が俺に行った。
「おはよう」
彼は有名大学卒業のエリート社員なのだが、そういう雰囲気を全然感じさせない気さくでいい奴だ。みんなからも圧倒的な支持がある。
俺の会社は出版社だ。海外にも支部があるデカい会社だ。
「あ、そうだ茨木。部長が探してたよ」
「ありがとう」
俺はそう言われて部長のところへ行く。
「よぅ!」
「おはようございます、部長」
部長…肩書きは堅苦しいが、うちの部長は…スキンヘッドにサングラス、アロハをこよなく愛する男だ。何故部長になれたのか…謎だ。
「君に担当してほしい作家がいたりするんだよん。もちろん引き受けてくれるよねん?」
部長…甘えないで下さい。
「そのアロハ、最高ですね」
「わかるぅ?ニューモデルなんだよぉ。今年のトレンドはな、大きめの花のアクセントで…」
部長は嬉しそうにアロハの説明を始める。チャンス!
「そうですか。では私は仕事に戻りますので」
「はいは〜い」
やった!俺は回れ右をする。
「…いやいや待て待て!話まだ終わってねぇじゃんか!」
…あ〜あ…失敗した。
「君に新しく担当してほしい作家さんはな、女性作家でな、桃色いちごさんというんだ」
…すげー作家名だな。
「なんで私に?」
「なんとなくさ〜!しっかり者の君と変な名前の作家とか、おもしろいじゃないか〜!あはははは〜」
このクソ部長…!
「じゃ、この住所に14時に頼むね」
俺は部長からメモを受け取った。
「ショッキングピンクの外壁の家らしいから、きっとすぐわかるさ」
うわー…。
ピンポーン
14時に桃色いちごを訪ねた。1度も迷うことはなかった。…本当に外壁がショッキングピンクだったから。屋根やドアや窓枠は真っ赤。派手すぎるだろ。しかも表札にMOMOIROって…アホだろこの作家。
「は〜い」
インターホンに若い女が出る。
「出版社の茨木です」
「ああ!雅樹ちゃんね?聞いてるわ。今開けるわね〜」
うわーなんか会いたくねぇ…。
俺はロックが解除された門から中に入る。小さな庭にはバラがいっぱいだ…。もう俺絶対この作家と合わないの目に見えてるって…。
「雅樹ちゃん勝手に入って〜」
家の中からいちごがそう言った。俺は勝手に玄関に入り靴を脱いだ。家の中は白と金を基調としたオリエンタルなインテリアだ。家は大きいわけじゃないけど金持ちか?
「いらっしゃーい。こっちよ」
俺は声がする方へ向かう。そして絶句。
「こんにちは、雅樹ちゃん」
「……こんにちは」
原稿やら資料やらで雑然とした部屋に、腰までのストレートな黒髪のロリータ女がいた。そして極めつけは…その部屋にはたくさんの人形…。
「よろしくねっ」
俺、卒倒しそうだよ…




