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言いなり

『おっ、今日はそうめんか〜夏だねぇ』

リサは夏樹の膝の上から食卓を覗いている。

『なぁ雅樹よ。頼みがあるんだけど』

俺はリサを無視して華夏美の手伝いを続ける。

『無視か。いいんだな、あたしを無視するならここから飛び上がって夏樹のアゴにカーンとぶつかってだな、夏樹は舌を噛んでうわぁ〜ってなことに…』

「わかった、聞くよ」

「あなた何言ってるの?」

「いや…独り言」

リサを見ると、例の薄ら笑いでこっちを見ていた。

『あたし、めんつゆで汚れたくないわけ。だから夏樹にそれを伝えてくれよ』

「…夏樹、人形を部屋に置いてきなさい」

「なんで?」

「せっかくのお洋服が汚れたら可哀想だろ」

「そうだね」

夏樹はリサを部屋へ置きに行った。

ああ、静かな食卓だ…幸せだ…。


食事が終わると、夏樹と妻は風呂に向かった。

家族は愛しているが、こうやってひとりになれる時間も大切だ。


『おーい!夏樹たちが上がったらあたしも風呂に入れてくれー!』


…俺に安らげる時間はない…。


俺は夏樹の部屋を開けた。人形は当たり前のように枕の上であぐらをかいてこちらを見ている。

「なんで俺に頼む?」

『さっき言いそびれたんだよ』

「人形なんだし、別に明日夏樹と入ればいいじゃないか」

『今日夏樹にカスタードつけられたんだよ、頭に』

「だから?」

『明日まで待てん』

「待てよ」

『…いいんだな、夏樹が眠った後、絶えずほっぺをつついて安眠妨害をだな…』

「やります。洗わせていただきます」


「あれー?パパあたしの部屋で何してんの?」

夏樹が部屋に入ってきた。

「ちょっとな…」

「ふーん。あ、お風呂パパの番だよ」

「はいはい」

俺はリサを持って部屋を出る。

「リサちゃんどこに連れて行くの?」

ドアを閉めようとする俺に夏樹が聞いた。

「風呂だよ。夏樹、この人形汚れてるぞ?」

「あ、リサちゃんの上にシュークリーム落としたんだった」

そりゃ汚れるわな。

「トリートメントもしてあげてね、パパ」

「あー…はいはい」

「リサちゃん行ってらっしゃーい」

俺は夏樹の部屋を後にする。

風呂へ向かう途中で華夏美にすれ違う。

「あら、あなたリサちゃんとお風呂?…ぷっ」

今…今笑ったぞうちの嫁は…!

「夏樹がカスタードつけてるんだよ、頭に」

「あら、ほんと。よく気づいたわね」

華夏美は人形を見て言った。

「まぁな…」

まぁな…としか言えねぇ。人形に聞いただなんて言えねぇ…!


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