海水浴
『ねぇ、雅樹ちゃん。今の季節、行くべきところがあるわ』
我が家でサーロインステーキを頬張るいちごが言った。
「…却下」
『連れて行ってよ!』
「いちごちゃん、どこなの?」
華夏美、余計な助け舟を出すな。
『海水浴よ!』
……絶対夏樹が反応するぜ…。
「ママ! 行こう!」
ああ…決まっちゃったな……。
…と、いうわけで。俺たちは海水浴に来ています。メンバー? 凄いぜ。意味わかんねぇぜ。俺・華夏美・夏樹・いちご・女王蜂・3バカ・巻き貝。…うわぁ。
「あなた、まだまだいい体ね」
華夏美…ありがとう。華夏美はピンク地の花柄模様のビキニです。白い肌に、色素の薄い茶色がかった髪…君もまだまだイケるぜ…なんてノロケてみました。
『女王蜂ちゃん、日焼け止め塗って〜』
「うふふっ、いいよ」
変態っ!!
『優しくしてね』
「うふふふふふふっ」
教育上よくねぇからやめろ!!
「俺、日に焼けると真っ赤になって皮剥けて終わるんっすよね…」
男としてなかなか悲しいなぁ、巻き貝よ。
「パパぁ、早く浮き輪やって〜」
「はいはい」
夏樹は、淡いピンクのワンピース型の水着を来ています。腰のあたりにミニスカートみたいなプリーツがついています。
『あ、雅樹ちゃん。ついでに私の浮き輪もお願いしま〜す』
「えー…」
『いいじゃんか!』
いちごは、白地にいちご柄のビキニ。ほとんどのパーツの縁にフリルがついている乙女仕様。
「あたしがやってあげるってば」
『ありがとう! 好きよ女王蜂ちゃん!』
女王蜂は、無地の黒のビキニ。抜けるような白い肌に抜群のスタイル。綺麗な顔にお団子頭。男が群がりそうなのに…いちご大好きだなアンタ……。
ちなみに、3バカも色違いの無地のビキニ着用です。リサが白、マリンが水色、ジュリアが赤。やっぱりジュリアが一番スタイルいいね。小麦色の肌だし、海が似合うよ。うん。
「…さぁ、浮き輪もできたし、行こうか!」
「うひゃぁ!」
俺たちは走って海にザブザブ入って行った。……ヤベェ…28歳サラリーマン、ちょっと楽しんでます。
華夏美は夏樹について浅瀬で遊ぶ。俺は…
『みんな、あの浮きまで競争よ!』
といういちごに駆り出されました。浮きはまぁまぁ遠いけど、俺、正直、負ける気がしねぇし。
第一コース、いちご。
第二コース、俺。
第三コース、女王蜂。
第四コース、巻き貝。
『よーい…どんっ!』
俺、やはり先頭に。次に僅差で巻き貝がつく。それに並ぶように女王蜂。いちごは…女王蜂より頭二つ分後ろだ。言い出しっぺなんだから頑張れよ。しばらくその位置で接戦が行われる。
「…ぐはぁぁぁぁ!」
え? 今背後で変な声が…? 振り返ると巻き貝がいなくて、替わりに女王蜂が不適な笑みを浮かべていた。
「うふふっ……サバイバル…っ!」
いやぁ、意味わかんねぇー!!!
「待ちなさいMASAKIちゃん…」
いやぁぁぁぁぁぁ!浮きまでもうちょっとだ!もうちょっと!!
「…うふふっ」
「うわぁぁぁぁぁぁ!…ゴボゴボ…」
「さぁ、いちごちゃん、行くのよ!」
『うへ〜い! やったぁ〜1番だぁ!』
…なんとか浜辺に辿り着けた俺と巻き貝は、海水でしょっぱくなった口の中で呪いの言葉を呟いていた。肩でゼェゼェ息をしていると、ふたりが爽やかな笑顔で戻ってきた。
『私が1番よ!』
殺す……っ!
「俺、ちょっとバテた…休憩するわ」
『オッサンだねぇ。女王蜂ちゃんと巻き貝ちゃんはまだ遊ぶよねぇ?』
「もちろんよ!」
「喜んで!」
俺は若い奴らを置いてパラソルの下へ戻った。
『よう、楽しそうじゃねぇか』
「まぁな…」
『あたしたちはあんまり塩水よくないから海水浴はNOだからね。まぁ水が基本的によくないからね』
「だろうな」
『帰りの車、毎度の如く、あたしたちと運転手以外みんな寝ちゃうんでしょうね』
「…だろうな」
俺は爆睡するみんなの顔を思い浮かべて微笑んだ。
『ミスター茨木、なかなかハッピーそうじゃないの』
「そう?」
『ああ』
『幸せそうですよ』
「そうか」
俺たちは笑い合った。…までは覚えてるが、どうやら俺は寝てしまっていたらしい。
「…あなた? 海の家でごはんはどう? まだ寝る?」
「…ああ…いや、行くよ」
『連れて行けよ』
俺は3バカを持って華夏美の後に続いた。
『私はジャイアント・スペシャル・ブルーハワイね』
「それ、ごはんじゃなくてかき氷だよ?」
『わかってるわよ夏樹ちゃん。お気になさらず〜』
「じゃぁ、あたしはカレーにしようかな」
「じゃぁ、僕も華夏美さんと同じで」
「俺は枝豆とビールと冷や奴」
「夏樹はねぇ、うど〜ん」
「あたしはラーメンで。大盛りで」
俺たちはそれぞれ食事をした。すると離れた席にいた金髪の男が声をかけてきた。
「茨木さ〜ん!」
「…おぉ! アンソニーじゃないか! こっち来いよ〜」
俺の会社のすぐ下の後輩だ。血はアメリカ人だが、生まれも育ちも日本だ。でも英語は流暢だ。
「誰と来てるんだ?」
「弟のジョージと」
「…男ふたりで?」
「兄弟揃って彼女いないんですよ…うぅ」
「そうかそうか。一緒にどうだ?」
「いいんですか?」
「ああ」俺たちの席にアンソニーとジョージが加わった。
「いや〜先輩。美女ばかりですねぇ」
美女…まぁ美女は3名ほどいるはずだが…変な奴だぜ?
「先輩、紹介して下さいよ」
「ああ。妻の華夏美、娘の夏樹、俺が担当させられた作家の桃色いちご、その連れである巻き貝と女王蜂だ」
「…先輩、失礼っすけど、後半の方名前おかしくないっすか?」
『私のは気にしないで。本名は永久に秘密よ』
「あたし、本名はね、琴美なの」
「僕は太郎です」
巻き貝、親、名前のセンスなかったのか…?
「コトミ……ポッ」
あれ? 誰か何か呟いたか?
「…ジョージ! しっかりしろぉ! どうした、熱中症か?」
アンソニーが、ジョージの顔色が異様に赤くて、目もぼんやりことに気がついた。
「琴美ちゃん、キレイ」
…あちゃー…。
「お前、彼女タイプなのかぁ〜?」
アンソニーが肘でつついて茶化す。女王蜂はというと、…不適な笑みを…。何をたくらんでる?
「今度、あたしとバイクで出掛けませんか?」
「いいんですか?」
「バイクの免許はお持ちのようね。…負けないわよ」
何にだよ。
「望むところさ」
…勝手に頑張れ。
俺たちはそれから意気投合して、料理を追加してしばらく海の家に居座った。
「ママぁ〜…あたし眠い…」
人形を握り締める夏樹が華夏美にすがりついてきた。
「あらあら…どうしましょうか」
『夏樹ちゃん、ビーチバレーとかしないの?』
4歳の娘に無茶を言うな。
「いちご、今日は連れてきてもらって楽しかったし、また来ればいいじゃないの。ね?」
『そうね。実はまだ仕事あるしね…』
それから俺たちは外人と別れ、パラソルとかを片付けた。既に意識の飛びかけた夏樹も、半ば無理矢理真水のシャワーをさせて服を着せた。
帰りの夕日に照らされた車内は、案の定みんな爆睡。
『楽しかったですね』
『泳いでないけど、海の家でずーっと夏樹に握られてたから結局塩水とか砂はついたな』
『ミスター茨木に洗ってもらえばいいでしょ』
『そうだな』
えー…俺、帰ってもまだやることあるんだ…。




