犬とリサ
昨日は夏樹と華夏美は出かけている。俺はひとりでのんびり…できるわけがない。
『なぁ、雅樹よ』
「何ですか」
『夏樹の服の趣味、どう思う?』
ソファーに座る俺の目の前の机に、あぐらをかいているリサが言う。
「可愛いんじゃないですか」
『いやぁ、あたしにはロリータの趣味はないんだよなぁ』
「そうですか。じゃぁそろそろ部屋に戻ってください」
『寂しいこと言うなよ。いいじゃねぇか』
部屋に入れると開けろと喚き散らすので、仕方がない。
「俺と喋ってて楽しい?」
『いや全然』
ガーン
人形に言われても若干ショック。
「なんで俺としか喋んないの?」
『おっ、ハゲてるわりにはいい質問するじゃねぇか!』
「いや…だから俺ハゲてねーし…」
『あたしがお前としか話さないわけはだな』
無視かよ…
『夏樹を相手にすると、こんな言葉遣いすると夢を壊すしよぉ、幼稚園の友達をわんさか連れてこられていじりまわされるのがオチだろ?華夏美だと、これもまた近所のババアに知れ渡っていじりまわされるのがオチだろ。お前なら、オッサンが人形が喋るなんて他人に言ったら、狂ったと思われるだろうから他言しねぇだろ?』
まぁな。いい歳こいた俺がそんなこと言ったら頭が狂ったと思われるだろうな。
「それはそれは頭のよろしいことで」
『だろ?』
そう言うとロリータ女はニカッと笑って見せた。白い歯が覗く。
ブロンドのストレートヘアを腰まで伸ばし、愛らしい目に整った鼻、きれいな唇。長い手足、白い肌。幼い女の子が憧れる完璧な美人だ。
「…もう少しおしとやかにはなれないだろうか…」
『あぁ?!何か言ったか?』
「…いえ…別に…」
ゴスロリ女は大口を開けてあくびをした。
…いつか絶対燃やしてやる。
ワンっ!!
俺の足元で茶色いダックスフントの蜜柑が吠えた。
『おっ!犬!』
ロリータ女は机から身を乗り出して犬を見た。
『乗せろ!犬!』
蜜柑は尻尾を振ってリサを見ている。リサは机から飛び降りて蜜柑の背中に飛び乗る。
『うほ〜い!!』
蜜柑は面白がって走り出した。
『うきゃ〜こりゃ最高だぜ〜犬!』
…これで暫くゆっくりできる…
俺ソファーに横になって目を閉じた。
目が覚めた時、ロリータ女が顔に乗っていたわけだが…。




