巻き貝と女王蜂
『…と、まぁ。そういうコンセプトでいこうと思ってるわけなのよ』
「なるほど」
俺は今日は仕事としていちご城に来ています。ちなみに、こういう時は毎回3バカも一緒です。
ピンポーン
あら、来客です。いちごがモニターを見ながら受話器を取る。
『おはよ〜。入って入って〜』
いちごがそう言うと客が玄関のドアを開ける音が聞こえた。そして数歩の足跡の後、メガネをかけた痩せた男が姿を現した。ガリ勉って感じの見た目で…いや、オタクって感じかも…。
『雅樹ちゃん、紹介するね。巻き貝ちゃんよ』
「…はぁ」
「ど、どどどどうも! 僕、あの…えーっと……お会いできて光栄です!」
挙動不審かよ!
『いちご、まさか彼氏かよ?』
『いやだわ、リサちゃん。だったら雅樹ちゃん妬いてくれるかしら? ふふふっ』
アホか…。
「あ、もしかして、MASAKIちゃんですか? ブログによく登場しますよね」
「ああ、まぁ」
ってかなんで俺、ブログではローマ字表記なの?
「確かに整った顔してますね〜」
「…どうも」
……。
『ってか何なんですか? 巻き貝って」
『ああ、ハンドルネームだよマリンちゃん。私のブログに度々コメントしてくれてるファンだったんだけどね、私のリサーチにより近所に住んでることが判明してさ、パシリに使用してるのよ』
「そういうことなんですよ。あははは」
…ふーん…。
『で、今日のお使いはこれね。お願いね』
いちごはそう言って巻き貝にメモを渡した。
「行ってきます」
そう言う巻き貝に、いちごはヒラヒラと手を振った。
『さて、仕事の話の続きよ』
「…ああいうパシリってまだいるの?」
『うん。みんな交代で私の面倒見てくれてるからね。女王蜂ちゃんとかおたまじゃくしちゃんとかユーラシア大陸ちゃんとか、色々ね』
『いいな〜。あたしもパシリ欲しいな〜』
おい、リサ。お前既に結構俺をパシってるぜ?
『あたしがまだ女頭だった頃は、数えきれんほどのパシリがいたんだけどなぁ』
じゃかぁしいわロリータ女。
『あたしもモデルだった頃は、あらゆるメンズにアプローチされて…楽しかったなぁ』
モテたんですね、ジュリアさん。
『でもね、安心してよ、雅樹ちゃん。私が愛しているのは雅樹ちゃんだけよっ』
………は?
『さっ、仕事仕事〜』
……。
『いちごさん、ちょっと読ませて〜』
マリンがいちごのパソコンへ近づく。
『いいわよ〜』
『新作ですか?』
『ええ。体中がゴムのような主人公と、足技の得意なコックさん、剣道の達人、天才航海士、オトボケ技術士、などの面白いメンバーで海を旅する話よ』
待て! 俺、なんか心当たりが…!!
『おもしろそうですね!』
『主人公のネームは何ていうの?』
『うふふ、モンキッキー・C・ルフェよ』
待てーー!!
『実はね、執筆中からブログでは大盛り上がりなのよ! またまたベストセラー間違いナシだわ! オホホホホ!』
…部長…俺…もうダメだよ…。
プルルルル…
『あ、電話だわ〜』
いちごが電話へ走って行く。
『は〜い、どなた? …ああ、女王蜂ちゃん! …ふ〜ん、そうなの〜。大変ねぇ…まさかあの温厚な弟がねぇ……キレる子どもたち…? あら〜大変ねぇ……。うん。うん。いいわよ? いらっしゃいな。…ああ、エクセレントティ? ちゃんとあるわよ〜』
えー…また変なキャラクター増えるんだよねー…憂鬱だよ部長…。
『え! 実はもう家の前にいる?! 入ってらっしゃいな〜』
玄関の開く音がして、その後駆け込んでくる足音がした。
「いちごちゃ〜ん!」
『まぁまぁ。大変ねぇ。今お茶淹れるわ。座ってて』
駆け込んで来たのは、20代前半であろう女性。真っ黒のライダースーツに身を包み、黒髪を前髪を作らずにお団子にしている。長い手足にびっくりするような美人。手にはセンスのいいヘルメットが握られている。
「あの…こんにちは、出版社の」
「MASAKIちゃんでしょ? 知ってるわ」
そう言いながら彼女は鼻をすすった。
「あの…あんまり泣かないで下さい。まぁ、とりあえず座って下さい」
「ありがとう」
俺は彼女を向かい側のソファーに座らせた。いちごがお茶を運んできて彼女の隣に座る。
『女王蜂ちゃん、弟さん、どうしてキレたの? 高校生でしたっけ』
「そうよ。部屋に入ってね、タンスの中身をチェックしたらね、アンダーウェアはボクサーパンツ派だったのよ。でも、その趣味が悪かったから、全部破棄して新しいのにしてあげたのよ」
『どんなのに?』
「全部ハート柄に」
この美人、どアホだ。そりゃあキレますよ弟さん。
『ひどい弟ねぇ』
「でしょ?」
いえ、彼は普通です。
「しかも、何故か両親にも呆れた顔をされたわ。ショックよ」
『理解のない親御さんねぇ』
いえ、両親も普通です。
『あ、雅樹ちゃん、紹介が遅れたわね。彼女、ハンドルネーム女王蜂ちゃん。バイクが趣味だから、移動手段として呼びつける子なの』
この人あんたより年上だぞ。
「いちごちゃんを後ろに乗せて運転するとね、いい匂いがするし、太ももにチラチラ当たる服のレースが最高なのよ」
変態か!!
『まぁ、ね。とりあえずさ、気晴らしに今日は雅樹ちゃんのお家でサーロインステーキでも食べましょ?』
「はい、そうですね」
話をまとめるな!このエンゲル係数泥棒猫が!