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ちょっと切ない話

「ねぇ、ジュリアちゃん」

『呼び捨てでいいよハニー』

『…おい!!』

リサとマリンは顔面蒼白でジュリアを睨む。

『夏樹と喋っちゃダメだろうがボケェェ!!』


…はっ!


俺は悪夢から目覚めた。隣には華夏美がスヤスヤと寝息を立てている。なんと縁起の悪い夢なんだよ…。俺は枕元の携帯電話をチェックする。現在の時刻は午前4時。3時にメールが1件届いていた。


『雅樹ちゃんおはよ〜。いちごだよん。今日は締め切りの日だね。ばっちりできてるから10時に来てね〜。あ、ついでに、人形ちゃん3人とも連れてきてねっ!』


…いや、最後の1文…意味わかんねぇ…。


「おはよう。早起きどころかまだ夜だよ?ところでなんで人形なんかいるの?」


返事はすぐに来た。


『この前見た時に、何か不思議なモノを感じたのよねぇ。ちょっと気になってね。オホホ』


うわぁ…マジで魔女だよこの人…。


俺はもう一眠りして、いつものように家族との朝の一時を過ごし、普通に出社。

さて、そろそろ悪の拠点いちご城へ行かなきゃいけない。もちろん、カバンの中には奴らが。

もう会社では大変だった。俺の会社を見たいからって出せ出せうるさいの何の…。まぁ人形オタクだと思われたくなかったから必死に隠し通したけどね…。



ピンポーン


『あ、雅樹ちゃん。入って入って』


インターホンの応対を聞いて俺はいちご城へ入場した。いちごと俺はひと通り業務的な話を済ませ、わけのわからん紅茶ではなく普通の緑茶を頂いた。

『私の本あんまり好きじゃないのね』

「うん。世代も違うしな。人には好き嫌いがあるから」

『そうね。でも新作はぜひ読んでね』

「題名は?」

『細木イチゴのズバリ言われちゃったわよ』


ダサっ!


『あ、そうそう。お人形は?』

「ああ…」

俺は鞄から3体を取り出し机に並べた。いちごは3体に愛らしい笑顔で話し掛ける。

『こんにちは、桃色いちごです』

横たわったロリータ3体はもちろん無言。

『こんにちは、私、小説家やってます』

相変わらず3体は営業スマイル。


『…わかってるのよ、茶化すんじゃねぇ。燃やしてしまうわよ?』


愛らしい笑顔のままそう言われると、3体は突然素早く正座した。


『こんにちは!』

うわぁ、リサが真面目だぜ!ってかこの女…魔女だ絶対!

『みんなそんなに固くならないで。足、崩してね。遠慮なくくつろいでよ』

『はい、ミス桃色』

ジュリアがそう言いながら長い脚を伸ばす。それをチラッと見てリサがあぐらをかく。マリンはいつも正座だから崩さないけど。

『私、幼い頃からずっと夢だった。こうやって人形とお話するの』

『そうなんですか?』

『うん。ここにいる人形は誰も喋らないから』

『まぁな。大抵の奴は話さねぇからな』

『どうして?』

いちごがそう訊くと、3体はしばらく黙り込んだ。やがてリサが切り出した。

『あたしたち人形は、みんな人間の生まれ変わりなんだ。誰もが魂を持ってる。だが、人形に生まれ変わる奴は、みんな人生を諦めた奴なんだ。人間界に悩み、人間を辞めた奴。だから人間に関わろうとしねぇ。たとえもし関わったとしても、歳を取らない人形はその人間を見送ることになる。そんなことなら、人形に徹して、人間に飽きられればリサイクル。その方が楽さ』

『…悲しいね……でもあなたたちは私や雅樹ちゃんと話すわ?』

『あたしたちは人間を諦めたわけじゃないからな』

リサがそう言いながら鼻で笑う。

『?』

『死者の数って、物凄いでしょ。だからたまに間違えるんですよ、神様の秘書が。秘書が間違った書類を神様に提出、神様は気付かず印鑑をポン!それであたしたちはお人形です』

マリンもそう言いながらクスッと笑う。

『髪が伸びるドールとか、本当の人間のような顔立ちで長年人々を魅了するドールとか、そういう人間っぽいやつはあたしたちみたいな奴ら』

ジュリアもそう言いながら笑う。

『人形も複雑なのね』

いちごは部屋に飾られている人形を見回す。

『…私、人形が好き』

そう言ういちごを見て、3体は嬉しそうに微笑む。その顔は本当に幸せそうで、営業スマイルで飾られている人形も、どこか嬉しそうに見えた。


…ヤバイ…俺、人形キライになれねぇ…っ!!

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